受験生の娘を“起立性調節障害”にした教育熱心な母親の一言とは?

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まさかその一言が子どもを追い詰めているとは…(写真はイメージ)

「あなたのことを思って言ってるんだよ」

 よかれと思って言ってしまう言葉ですが、子どもの成長を考えるなら別の声掛けをしたほうがいいのだそうです。

 子供のことを心配する気持ちや可能性を広げようする想いはわかります。大人から見ると視野が狭かったり、物事を一面で捉えたりすることもある子どもに手を差し伸べてあげたいのが親心です。

 しかし、そうした親心こそ視野が狭かったり、多面で捉えられていなかったりすることもあります。

 本稿では10月に小児科専門医の成田奈緒子さんと公認心理師の上岡勇二さんが刊行した『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)から、事例として中学3年生のアイミのエピソードを交え、科学的に正しい言葉がけとその理由を紹介します。

 ***

NG「あなたのことを思って言ってるんだから」
OK「あなたはどうしたいの?」

■事例 アイミ(中3)

〈アイミの母親は教育熱心。事あるごとに、「あなたのことを思って言ってるんだから」と、勉強から生活面まで事細かに指導をしてきます。
 もうすぐ高校受験ですが、アイミは勉強になかなか集中できないでいます。母親からは私立のA高校を受験するように言われているのですが、本当は、多くの友達が進学する公立のB高校に行きたいと思っているからです。しかし、母親は「あなたのことを思って」と譲りません。
 そんなある朝、アイミは腹痛でベッドから起きられなくなってしまいました。病院に行くと、「起立性調節障害」と診断されました。〉

■「あなたのことを思って」は子どもを支配する呪文

 本当に子どもの成長を考えているなら、「あなたのことを思って」という言葉は口にすべきではありません。この言葉は、親が子どもを支配するための呪文です。

 このような言葉を日常的に投げかけられている子どもは、「お母さんの言う通りに頑張らないと!」と考える脳の神経回路が太くなってしまいます。神経回路が太くなることで、脳は情報をより速く伝えられるようになります。

「お母さんが言っているから頑張る」ことはストレス以外の何物でもありません。アイミは、「あなたのことを思って」と母親に言われ続けることで、ストレスを生む脳の神経回路が太く、速くなってしまいました。そうして、腹痛や頭痛などにより起きられなくなってしまう、起立性調節障害を引き起こしてしまったのです。

 起立性調節障害は、いわゆる「いい子」と呼ばれる子どもが多く発症します。「こんなことくらいは平気だと思わなきゃ!」と頑張り過ぎてしまうからです。近年、小学生で約5%、中学生で約10%の有病率が報告されています。

■子どもは親の「分身」でも「所有物」でもない

 なぜ「あなたのことを思って」と口にしてしまうのでしょうか。

 それは、多くの親が無意識的に、子どもを自分の「分身」、もっと悪い言い方をすれば「所有物」だと思っているからです。「自分ならこんなことはしないのに」とイライラしたり、「自分が実現できなかった夢をかなえてほしい」と期待したり、「私がこの子を正しい道に導いてあげなくては」と気負ったりしていないでしょうか。

 確かに、子どもは両親から生まれ、親のDNAを引き継いでいます。しかし、それは両親の半々だけです。子どもは、生物学的にも、倫理的にも、親とは全く違います。親は子どもに対して、自分とは別の一人の人間であると自覚すべきでしょう。親は自分の意見を押しつけるのではなく、子どもの考えを引き出すような言葉がけを心がけましょう。

 アイミの母親も、子どもを「分身」だと思っている典型です。

 アイミはもう中学3年生なので、「こころの脳」(前頭葉と間脳・脳幹をつなぐ神経回路)がかなり育ってきています。進路について自分自身でしっかり考えることができる年齢です。親が進路を決めるのではなく、まずは、「あなたはどうしたいの?」と子ども自身の考えを聞くようにしましょう。

 子どもの考えを聞いてみても、「公立より私立の方がこの子の将来のためには絶対いいはず」などと思うかもしれません。しかし、子どもは親とは全く別の人間なので、親が期待する行動をしなくて当然です。親は子どもの考えを尊重し、子どもが自分の行きたい道を自由に選べるようにサポート役に徹しましょう。

 子どもを「分身」と勘違いしないためにも、子どもが中学生になったら、自分の子どもではなく、「年下の友人」くらいのスタンスでつき合うのがいいでしょう。そう思えば、子どもを自分に引き寄せ過ぎず、気負い過ぎずに自然な会話ができるはずです。

■子どものストレスサインを見逃さない

 アイミが発症した起立性調節障害などにならないために、親は子どものストレスサインに敏感になりましょう。なぜかというと、子どもは、大人に比べて脳や身体能力が未発達なため、ストレスをなかなか自覚できないからです。

 日々の生活の些細なところに、ストレスの徴候は隠されています。たとえば、いつもは朝ごはんを完食する子が、ブロッコリー1房を残したことに気づきましょう。また、好きなアイドルがテレビに出てきても、子どものテンションが上がらないことに気づきましょう。いつもと何かが違うように見えるときは、「今日、疲れているよね? 早く寝た方がいいんじゃない?」と声をかけてあげましょう。

 翌日、それでも顔色が悪く見えるときには、学校を休ませるのも一案だと思います。休ませたら1日の終わりに、「休んでみてどうだった?」と聞いてあげましょう。

「すごく気分がよくなった」と子どもが答えたら、「ああいうときって疲れているってことなんだよ」と伝えてあげましょう。

 一連の経験をすることで、子どもの脳はストレスへの対処法を獲得することができます。

成田奈緒子(なりた・なおこ)
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。 1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。

上岡勇二(かみおか・ゆうじ)
臨床心理士・公認心理師。子育て科学アクシススタッフ。1999年茨城大学大学院教育学研究科を修了したのち、適応指導教室、児童相談所、病弱特別支援学校院内学級、茨城県発達障害者支援センターで、家族支援に携わる。著作に、『改訂新装版 子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング 育てにくい子ほど良く伸びる』(共著、合同出版)、『子どもが幸せになる「正しい睡眠」』(共著、産業編集センター)、『ストレスは集中力を高める」(芽ばえ社)。

「子育て科学アクシス」
2014年に、成田奈緒子と上岡勇二が中心となって立ち上げ。医療、心理、教育、福祉の専門家が集まり、「ペアレンティング・トレーニング」の理論を基にした親支援、家族支援を行っている。いわゆる発達障害、不登校、引きこもりなど、子育てに悩みや不安を抱える親たちや学びたい方々が数多く訪れている。

SBクリエイティブ
2024年1月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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