2023年5月に甲状腺がんと診断された緩和ケア医師の廣橋猛氏。
がんの緩和ケア医療を専門とし、医師として患者に正面から向き合ってきましたが、いざ自身ががん患者になると戸惑うことが多くあったといいます。
がん患者さんが、治療しながら、よりよい生活を送るために本当に大切なこととはなんなのか? 当事者となった廣橋さんが医者と患者の2つの視点からがん患者やその家族ががんと付き合っていくために必要な知識を解説した著書『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』(あさ出版)より、がん患者さんとそのご家族に知っておいてもらいたい「痛みへの対策」を紹介します。
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- 緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方
- 価格:1,540円(税込)
医師でも患者になると痛みを我慢してしまう
私は昨年に甲状腺がんと診断されて、甲状腺を全摘出する手術を受けました。
手術自体は無事に終わったものの、術後の傷がひどく痛み、つらい時期を過ごしました。
痛みはロキソプロフェンという痛み止めを飲むと治まりますが、それでも効くまでに30~60分程度はかかりました。しかも、朝飲んでも夕方には痛みがぶり返したり、飲むタイミングが遅いと、それだけ我慢をしなくてはならない時間が長くなったりしました。
我慢してもよくないと知りながら、看護師や医師に迷惑がかかるのではないかと思って、これぐらいは我慢しようと思ってしまったのです。
普段から、緩和ケア医師として患者さんたちに痛み出したらすぐに痛み止めを使いましょうとお話していた、にもかかわらずです。患者になるとそれを実践できませんでした。
痛みを我慢した背景には、大きく2つのことが関係していると自己分析しています。
まずひとつ目は、そもそも日本人は痛みを我慢しやすい人種であるということです。
アメリカの病院で勤務された経験のある医師に話を聞くと、海外の人はとにかく痛みを我慢せず、少しでも痛かったらすぐ対処してほしいと求めるとのことです。一方、日本人は小さい頃から「それくらい我慢しなさい」と言われて育てられたような、いわゆる我慢が美徳という面が関係しているのでしょう。
2つ目は痛み止めの薬を申し出ないともらえないという問題です。もし痛みを発症した時点で手元に痛み止めがあったら、私はあんなふうに我慢せずに飲んでいたと思うのです。ただ、入院すると頓服(臨時で追加する)薬は看護師さんに言わないともらえません。
私だけではなく、看護師さんを呼んでまで薬が欲しいと希望するのは……という遠慮が働いてしまう方は少なくないでしょう。
がん治療で痛みを我慢することは大きなマイナス
患者さんのなかには痛み止めを飲まずに済むなら、その方がよいと考える人もいらっしゃるでしょう。その気持ちも理解できます。
でも、あらかじめ痛み止めを飲んでよい間隔を医師は定めており、そのルールを守って飲む分には問題ありません。
痛みを我慢する時間は治療において大きな損失です。
痛みのつらさから解放されることで、がん治療をがんばれる。その結果、実際にがんの腫瘍が縮小して経過観察となる人だってたくさんいらっしゃいます。つまり、がん治療中のときから、身体的なつらさを緩和することで治療も最大限よい効果を発揮できるようになるということです。
ですから、薬を医師から処方されている方は、痛いときにはすぐに飲むようにしましょう。痛み止めをもらっていない方は、すぐ医師に相談してください。
また、痛み止めの薬を申し出ないともらえないという問題については、事前に1回分だけ先にもらっておけば解決します。痛くなったときにすぐ飲みたいからと話せば、処方してもらえることが多いはずです。
私自身、上記の方法で夜中の痛みを防ぐことができて、熟睡できるようにもなったのです。これによって心身の調子も健康に保つことができて、問題なく退院することにつながったと感じています。
廣橋猛(ひろはし・たけし)
永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長、緩和ケア病棟長。2005年、東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、2009年に亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。2014年から現職。病院での勤務だけでなく、浅草にある野中医院にて在宅医療にも携わる。病棟、在宅とふたつの場で切れ目なく緩和医療を実践する「二刀流」緩和ケア医。主な著書に『素敵なご臨終 後悔しない、大切な人の送りかた』(PHP研究所)、『がんばらないで生きる がんになった緩和ケア医が伝える「40歳からの健康考え方」』(KADOKAWA)がある。
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