『ブロディ先生の青春』
- 著者
- ミュリエル・スパーク [著]/木村 政則 [訳]
- 出版社
- 河出書房新社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784309206844
- 発売日
- 2015/09/25
- 価格
- 2,090円(税込)
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ブロディ先生の青春 [著]ミュリエル・スパーク
[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)
ミュリエル・スパークが帰ってきた! 一時期、あまり邦訳が出なくなっていたけれど、彼女のウィットや意地悪さは元々日本人好みのはず。近年、『バン、バン! はい死んだ』などが訳出されたうえ、『ブロディ先生の青春』は白水社の既訳( 『ミス・ブロウディの青春』)も復刊され、スパーク・ルネッサンスが起きつつある。
時は一九三○年代、舞台はエディンバラの女子学院中等部。保守的な中流階級の娘たちが通うこの学校に、ブロディ先生という人気女性教師がいた。リベラルな思想と型破りな教育方針で、校長先生らには煙たがられているが、徹底した個人主義を推奨する。「女性にチーム精神は必要ない。集団のために個人を殺すという意味ならなおさらよ。(中略)フローレンス・ナイチンゲールにとって、チーム精神はどうでもよかった。使命はただ一つ、敵味方の区別なく命を救うこと」。
先生はお気に入りの女子群を選抜してブロディ隊を組み、豊かな教育を授けようとする。一方、恋愛にも進んでいて、妻子ある男性教師と微妙な関係を続けており……。
黒いユーモアと軽妙さでぐいぐい読ませつつ、スパークは作者の特権を行使する。時間を自在に先取りして、女生徒たちと先生の未来をいとも簡単にばらしてしまったり、作中人物たちに自分の創作論を代行させたり。かのナボコフは、オーサーシップ(作者の責任と権限)の絶対性について、「作者と登場人物の関係は、調教師と虎のごとし」と宣言したが、スパークは英国のナボコフと言えるかも。とはいえ、ナボコフは時に虎が檻を破ろうとすることも知っていて、そのさまも小説に描いた。さて、スパークの戦略は?
全体主義を批判していたブロディ先生こそが、ブロディ隊を操るファシストそのものになり代わっていくのが恐ろしい。さらりと読めそうで、とんでもない重量級。スリムな爆弾の威力を思い知るべし!