絶望と希望 福島・被災者とコミュニティ 吉原直樹 著
[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)
◆移ろう町民の立場と思い
震災から五年が過ぎたが、福島第一原発事故で故郷を離れた被災者は、いまなお故郷とどう向き合うかという難題を抱えている。
本書の著者は第一原発がある大熊町の人たちを「難民化・棄民化」されていると捉え、この五年間、彼らを取り巻く変化を注視してきた。郷里に帰還できない中、帰還をどう考えるか。除染廃棄物を置く中間貯蔵施設の設置をどう受け止めるか。故郷を離れて会津地方などで暮らす中でコミュニティはどのように変化したか…。
本書では基本的に著者の考える社会学的な視点で大熊町民の置かれた情況が解釈されていく。研究のベースは会津若松市にいる大熊町民で、著者は五百人以上の人たちに会ってきたという。懇談会やヒヤリングで明かされる町民の言葉は重い。
<中間貯蔵施設ははっきり言って最終処分場だと皆思っている>
<災害復興公営住宅は、退避者待機住宅という位置づけなのか。(中略)永住できるものではないのか>
<町や県、国は何も住民に説明せず、生まれ育った土地に帰れなくなる(中略)。そんなときに(土地を)売るのは棄(す)てられるみたいなものだ>
著者はそうした大熊町の人たちのありようをエグザイル(追放者の意)と見て、E・サイードやH・アレントなど思想家の知見で読み解いていこうとする。高齢化と孤立化が進む中、故郷に戻りたいが戻れず、コミュニティも流動的になっていく。そうした変化がいかに大熊町民を傷つけているか。想像すると彼らの苦しみが迫ってくる。
本書では実態の描写より、思想的解釈が先行して考察される。やや論に走り過ぎているところもあり、実際の大熊町民からすると抽象的で難解な概念に戸惑う人も少なくないだろう。それでも著者の思いはこの一点にある。
<被災者の「いまあること」を、どれだけすくい取ることができるか>
その視点は本書全篇に通じている。
(作品社・2376円)
<よしはら・なおき> 大妻女子大教授。著書『コミュニティ・スタディーズ』など。
◆もう1冊
東野真和著『理念なき復興』(明石書店)。震災直後から岩手県大槌町に駐在し、復興の現場を見つづけてきた新聞記者のリポート。