『ポーラースター ゲバラ覚醒』
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【聞きたい。】海堂尊さん『ポーラースター ゲバラ覚醒』 エビータやペロンとの出会い…若き医学生時代としての日々を活写
[文] 篠原知存(ライター)
■キューバ革命を面白く
「デビューして10年、自分の作り出したひとつの世界で書いてきた。今回はまったく歴史も違いますし、挑戦といえば挑戦ですね」
医療問題をモチーフにしたエンタメ小説で知られる人気作家の新作は、なんと中南米が舞台の大河小説。4部作の幕開けとなる本作では、後にキューバ革命の立役者となる若き医学生、チェ・ゲバラがバイクで南米大陸を巡る旅に出る。過酷な現実に打ちのめされながら、「革命家」としての土台を築いた漂泊の日々がいきいきと描かれる。
「この時代の中南米って華やかな人が多い。日本で言うと戦国大名みたいなものですが、日本人が知ってるのは数人でしょう。なぜそう思うかというと、自分がそうだったから(笑)」
ペロン、エビータ、ボルヘス、ネルーダ…ゲバラが出会うのは綺羅星(きらぼし)のような人物たち。まさにオールスターキャストだ。時代背景や人物造形は史実に基づいているが、ドラマにはエンターテインメントの要素を盛り込んだ。
「フィクションも加えていますが、ゲバラの人物像としてはそう違ってはいないはずです。一般に知られている『ストイックな革命家』というイメージと矛盾しない、新しい顔を作れたらいいなと思っています」
中南米のことを知らない人にも、入り口になるような物語にしたいという。個性豊かな登場人物の言動を楽しむうちに、ドラマの背景を成す社会状況は自然に頭に入ってくる。各国を取材に訪ねたそうで、臨場感もたっぷり。
「この物語を書こうと思わなければ、たぶん僕自身も知らないままで一生過ごした。その自省を込めて、ですけれども。でも本当に面白いんですよ。知らない国だから嫌だとか言わないで読んでほしい」
完結すれば「20世紀とはどういう世紀だったのか」を問う作品になりそうだという。「中南米で起きていたことを知ることで、日本の歴史についても理解が深まるんじゃないかと思っています」(文芸春秋・1750円+税)
篠原知存
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【プロフィル】海堂尊
かいどう・たける 医師、作家。昭和36年、千葉県出身。『チーム・バチスタの栄光』など著書多数。