堀部篤史は『ギンズバーグが教えてくれたこと』を読んでクラッシュとギンズバーグの共鳴について考えた

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堀部篤史は『ギンズバーグが教えてくれたこと』を読んでクラッシュとギンズバーグの共鳴について考えた

[レビュアー] 堀部篤史(「誠光社」店主)

堀部篤史
堀部篤史

「『まほろば』(京都市左京区高野エリアにある居酒屋)でアレン・ギンズバーグを見た」という知り合いが数人いる。ゲイリー・スナイダーの住まいが京都にあったから、その関係もあって、ビートの詩人たちとこの街は縁が深かったのだろう。あるいはビート周辺の詩人とも親交の深かったいまはなき喫茶店「ほんやら洞」関係の人間によるアテンドだったのかもしれない。はじめてその話を聞いた当時、普段通っている居酒屋「まほろば」にギンズバーグがいるイメージがどうしても浮かばずに首をかしげた。
 同店がオープンしたのは1980年代のこと。ビート・ジェネレーションといえば1950年代のアメリカ文化であり、モダンジャズやヒッピー的な東洋思想かぶれのイメージが強く、その中心的人物であったジャック・ケルアックもニール・キャサディも早死にしてしまったから、同時代人として認識するまでに時間がかかったのだろう。おそらく同じような思い込みを持つ人も少なくないと思う。
 実際ギンズバーグがこの世を去ったのは1997年のこと。われわれが携帯電話でメッセージをやりとりしはじめる90年代半ばまで彼は存命だった。
 モダンジャズを聴きながら瞑想、というティピカルなイメージを着せられてしまったビートニクたちだが、ギンズバーグはジャンルを超え、アーサー・ラッセルとの録音を残し、ポール・マッカートニーとも共にステージに上がっている。パンクムーブメントが興隆した1970年代後半、ギンズバーグはザ・クラッシュのライブに足を運び、楽屋裏を訪れ、ジョー・ストラマーと意気投合し、彼らのラストアルバムとなった『コンバット・ロック』で朗読を披露している。
 ひとくくりにビートの詩人と片付けるのではなく、政治性の強い言葉を数多く遺した同時代人としてのギンズバーグを紹介したヤリタミサコ著『ギンズバーグが教えてくてたこと 詩で政治を考える』が、トランジスタ・プレスより刊行された。
 著者翻訳による5編の詩とその細部に及ぶ解説を添えたポケットサイズの非常に美しい上製本。本書を読んで、なぜクラッシュとギンズバーグが共鳴したのかがよくわかった。クラッシュの演奏をバックに披露した「国会風に」という詩に込められた反体制的アティテュードはもちろん、ニカラグアのサンディニスタ革命政権を攻撃した親米反政府組織コントラをバックアップしたCIAを直接的に批判する「カリプソ」3部作は、まさにクラッシュが『サンディニスタ!』に込めたメッセージと重なるものがある。
 今年の6月、パティ・スミスが来日し、ギンズバーグの詩を朗読するイベント『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』が開催され、詩人は再び注目を浴びた。しかし、その入場料は1万円と高額だったという。ギンズバーグの詩は本書のようなインディペンデント出版が刊行し、フリーもしくは幅広い世代が参加できる小規模な朗読会がふさわしい。

太田出版 ケトル
VOL.33 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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