<東北の本棚>人生を味わう道しるべ

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仕事なんか生きがいにするな

『仕事なんか生きがいにするな』

著者
泉谷 閑示 [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784344984479
発売日
2017/01/28
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>人生を味わう道しるべ

[レビュアー] 河北新報

 「働かざる者食うべからず」といった妄信的「労働教」から脱却し、真の生きがいを見つけるにはどうすべきか。横手市生まれの精神科医が、多くのヒントを詰めたのが本書だ。長時間労働などによって心身がずたずたにむしばまれそうな人たちにとって、すっと肩の荷が下りる処方箋ともなろう。
 「働き方改革元年」などと言われるが、そもそも働くことが前提の議論だ。ではなぜ働かなければならいのか。「メシが食えなければ始まらないだろう」と親たちから言われ続けても実は説得力がなく、若者ら現代人の「心の飢え」につながっていると著者は分析する。
 労働が賛美されるようになったのは「資本主義が輸入されたと同時に(中略)『労働』に禁欲的に従事すべしという『資本主義のエートス』が輸入された」ためだ。
 労働価値説が根本的価値となり、古来は最も価値あるとされていた静かに思索を重ねる「観照生活」が、怠惰で非生産的なものとして追いやられてしまったことを問題視する。
 生きる意味や真の自己を外部に求めてしまい、それを「職業」という狭い範疇(はんちゅう)で考えるしかないのが実情なのだ。では、その人らしい歩みを導き出すには。表層的ではない真の芸術をたしなみ、「遊び」を取り戻すには。生きることを深く味わうための具体的な道しるべは、ぜひ本書で確かめてほしい。
 「私たちの国は、サブカルチャーにおいては世界をリードする勢いを持っているのですが、しかしカルチャーそのものについては、まだまだ十分とは言えない状況にあるように思います」。後書きで著者はこう結ぶ。同感だ。
 著者は1962年生まれ。東北大医学部卒。現在、都内のクリニック院長。他の著書に「『普通がいい』という病」「クスリに頼らなくても『うつ』は治る」など。
 幻冬舎03(5411)6222=842円。

河北新報
2017年5月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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