『幸福のパズル』
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【聞きたい。】折原みとさん 『幸福のパズル』
[レビュアー] 産経新聞社
■真っ向勝負で「大人の純愛」
今時、ちょっと珍しいような直球の純愛小説だ。
主人公の作家、倉沢みちるは、老舗ホテルの御曹司、蓮見優斗と恋に落ちる。2人が何度も引き裂かれながら、愛を貫く姿が描かれている。ジェットコースターのような展開の連続に、一気読みしたくなる。
「担当者からストレートな純愛ものを、というお話があって書き始めました。最近の恋愛ものは淡々としていたり、設定が凝っていたりする作品が多いと思っていたので、真っ向勝負をしてみたかった」
自然豊かな葉山や安曇野を舞台に、登場人物のこまやかな感情がみずみずしく描写される。みちるの感じるときめきや切なさを追体験できるのは、長年、少女の心を捉える作品を発表してきた著者ならではだ。
純愛ものといっても、みちるや優斗は愛のためだけに行動するわけではない。相手の立場や、家族、家業-。大人として、互いの抱える事情を思いやる。
「実は私は恋愛ものって苦手。そもそも、周囲のことを考えずに自分たちの思いを貫くような男女って嫌いなんですよね。恋愛を縦糸とした、みちるの成長物語になりました」
本作は、メーテルリンクの童話「青い鳥」に着想を得ている。本当の幸せを探し求めるみちるが、波にもまれ、丸くなったガラスのかけら「シーグラス」を悲しみにたとえる場面は印象的だ。
〈『傷ついた心の欠片(かけら)は、最初は鋭く尖(とが)って触れると痛いけど。(中略)時が経(た)てば、こんなに綺麗(きれい)な宝石みたいになれるんだよ』〉
「生きていると、いいことも悪いことも起こるし、ひとつひとつをパズルのようにつなぐと人生が出来上がる。もともと幸せはどこにでもあって、自分が感じるか感じないかではないでしょうか」
悲しみも喜びも、人生というパズルの大切なピースだと気づかせてくれる。(講談社・1850円+税)
油原聡子
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【プロフィル】折原みと
おりはら・みと 昭和39年、茨城県生まれ。60年に少女漫画家、62年に小説家デビュー。平成3年の小説『時の輝き』は110万部のベストセラーに。今年は小説家デビュー30周年。