何度も開いて見入ってしまう 動物への畏敬を感じさせる写真集

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何度も開いて見入ってしまう 動物への畏敬を感じさせる写真集

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 スナネズミを飼っている。長くて黄色い歯、器用に使える手先、毛の生えたヒモのような尻尾など、物珍しくて見飽きないが、本書にはその数十倍もの驚きを与えられた。

「絶滅の危機にさらされている生き物」がテーマだが、彼らの置かれた状況の説明よりも、それぞれの生き物が長い年月をかけて整えてきた姿を、畏敬の念を込めて撮った写真に魅力がある。

 人間がこういう姿をしているのと同じく、ユーラシアのウシ科の生き物サイガは、筒のような長い鼻を代々受け継いで生きてきた。冬の冷たい空気を暖め、草原の埃を取り除くために。その顔をとらえた写真は、肖像写真のような威厳をもち、哀愁すらただよわせている。

 ホライモリの写真もすばらしい。このイモリは体は白くて模様がない。それどころか目もない。枝サンゴを思わせるピンク色の突起が頭の横に生えているだけで、余計なものを廃した抽象作品のような容姿だ。

 隕石の衝突により地球上の生物が絶滅したときも光のささない洞穴で生き延びた。視覚を使わないので目は退化し、見えないから求愛のために身を飾る必要もなく、白い端正な姿になった。視覚の代わりに嗅覚と聴覚をフル稼働し、磁場を探知する能力すら発揮し、きれいな水さえあれば食物なしで十年生きられるという、修行僧のような暮らしをしている。

 なぜ彼らはこういう環境で、こういう生き方をしてきたのか。その理由を問うても答えは出ないだろう。それは、他者から見ればどうしてあんなところに、と思うような地球上の場所に生き、暮している人間がいるのと同じだ。私たちにできるのは、それぞれの生き方を受け止め、その生を見守ることだけなのである。

 ネットで検索すれば何の写真でも出てくる時代だが、これほど神聖な気持ちにさせてくれる写真にはめったに出会えない。何度も開いて見入ってしまう。

新潮社 週刊新潮
2018年2月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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