『震災後の地域文化と被災者の民俗誌』
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<東北の本棚>研究者奔走復興後押し
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災によって神楽や田植え踊りなどの民俗芸能や祭りは「三重苦」の打撃を受けた。担い手が被災し愛用の用具が失われた上、祭礼を催す地域の環境自体が損なわれた。民俗学や宗教学などの研究者16人が聞き取り調査を通じ、再生に向けた歩みと展望を論じた。
民俗芸能や祭りは激変する地域社会への対応を迫られている。尚絅学院大の稲沢努・准教授は宮城県山元町の沿岸部にある八重垣神社で夏祭りが復活する過程を報告。みこしは震災の翌年、氏子たちが住む仮設住宅へ向かったが、新市街地が形成されるのに合わせて行き先を変更した。
原発事故によって長期的な避難を迫られた福島県浜通り。浪江町の「請戸の田植踊(たうえおどり)」などは県内外で復興支援に関わる出演依頼が急増した。郡山女子短大の一柳智子教授は行政が無形民俗文化財に指定する動きを紹介し「担い手にとって原動力となり、防災にも結び付く」と評価する。
行政から指定を受けていない民俗芸能の再開を後押しした東北歴史博物館の小谷竜介学芸員、福島県から自主的に避難した多数の母子にインタビューした福島大の堀川直子特任研究員の論考はそれぞれ、被災者に寄り添う姿勢が印象深い。
編著者のうち高倉浩樹東北大教授は、民俗学者らが被災者と実践的に交流する学問をフィールド災害人文学と定義する。「研究者には人々の生活文化の役割を積極的に理解し、復興に貢献する社会的な責任がある」と強調する。もう一人の山口睦・山口大准教授は「新たにつくられる人のつながりこそが被災地の文化であり、今後も明らかにしていくべき課題」と結ぶ。
新泉社03(3815)1662=2700円。