私は真面目に嘘をつく
[レビュアー] 誉田哲也(作家)
取り留めのない話をします。
誉田哲也の作品群の中核をなすのは警察小説である、というのは、多くの方が思うところでしょう。私自身それでいいと思っているし、今後もその方向性を無理に変えようとは思わない。ただしそれは、あくまでも中心というだけであって、決してすべてではない。一方では青春小説も少なからず書いてきた。細分化すれば、それらはスポーツ系だったり、音楽系だったり、趣味実用系だったりと、複数のジャンルに跨(またが)っている。
そんなのが全部交ざったらどうなるのかな、なんてことを、たまに思ったりする。
あと、過去に書いた事件のその後ってどうなったのかな、と考えることもある。たとえば「ストロベリーナイト事件」。あれって犯人は捕まったけど、未成年だったから死刑になるかどうかは微妙、もし死刑にならなかったら、いつかは出所してくることになる、そういうのが再登場する話も面白いかもな、などとぼんやり考えてみたりする。
自分の作風を自分で分析してみる、なんてこともする。
私の場合、まったく以(もつ)てこれは、逢坂剛(おうさかごう)先生の教えをただ忠実に実践しようとしているだけなのだが、とにかく視点人物の意識から離れない、視点を担う人物の五感、記憶、知識、感性、感情、思考、そういったものから外れずに物語のすべてを書ききる、というのを執筆の基本理念としている。
これって、登場人物の人生を「仮に生きる」ってことでもあるんだよな、と同時に、ある種の疑似体験を読者の方に提供することにもなるんだよな、とか考えたり。
ところで、本当に私がなんの繋がりも取り留めもない話をするとお思いですか。思っていただいてもかまわないんですが、でも、もしですよ、ここまでの話が全部、新作『ボーダレス』の内容についてだったとしたら、どうですか。