玲子よ、今を生きろ――『オムニバス』著者新刊エッセイ 誉田哲也

エッセイ

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オムニバス

『オムニバス』

著者
誉田哲也 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913854
発売日
2021/02/25
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

玲子よ、今を生きろ 誉田哲也

[レビュアー] 誉田哲也(作家)

 本書のタイトル「オムニバス」という言葉から連想するのは、普通は音楽CDの、あの何人もの作品がゴチャゴチャと入ったアルバムのことではないでしょうか。逆に言えば、疑問に思ってわざわざ意味を調べたり、その由来を正確に答えられたりする人は、非常に稀(まれ)なのではないかと思います。

 なので、調べてみました。ウィキペディアで。

 そもそもは「すべての人のために」という意味のラテン語なのだそうです。どうですか。いきなりイイ感じじゃありませんか。小説っぽくないですか。それが十九世紀の初め頃から「乗合馬車」という意味で使われ始め、なぜか「オムニ」が省略され、我々にも馴染(なじ)みの深い、あの「バス」という言葉が生まれたのだそうです。地域を巡回してくる、田舎(いなか)に行くほど一本を逃がしたときのダメージがデカい、アレですよ。

 要するに、そういうことです。

 人の一生なんて、みんな似たり寄ったりなのかもしれませんが、とりわけ姫川玲子(ひめかわれいこ)の人生って、この「乗合馬車」みたいなものなんですよね。

 事件が起こり、そのときの「姫川班」メンバーが乗っている馬車に、関係者がワサワサッと乗ってくる。だが事件が終わると、乗客のほとんどは馬車から降り、ときには仲間や愛した人さえも、いつのまにか姿を消していて二度と会うことはない。組織にいれば「異動」もある。仲間が去っていくのと同様に、自分にもいつか、この馬車を降りるときが訪れる。

 人生とは、そんなことの繰り返し―。

 でも、新しい出会いだってきっとある。一つひとつの別れをなかったことにはできないけれど、その都度乗り越え、新しい自分、今日の自分、明日の自分を作ることはできる。玲子に強く「今」を生きてもらいたい。これは、そんな気持ちで書いた作品です。

 あと、同じタイトルで歌も作ったんで、そっちもヨロシク。

光文社 小説宝石
2021年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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