『マリスアングル』
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あんなのと一緒にしないで
[レビュアー] 誉田哲也(作家)
姫川玲子(ひめかわれいこ)シリーズ、第十弾『マリスアングル』。
これだけで「?」ときた方は、かなり熱心な玲子シリーズ読者か、心清らかな誉田作品ファンであろう。あるいは最近、たまたま売り場でタイトルを数えてみた書店員さんか。
ここに全タイトルを列挙するのは、さすがに行数の無駄遣いになるのでやめておくが、前作『オムニバス』が「玲子シリーズ第十弾」なのでは? と思った方は非常に鋭い。
それは正しくもあり、しかし同時に誤りでもある。
一作品分生じるズレ。その原因は明らかだ。第五作として『感染遊戯』をカウントするのか、否か。その一点に尽きる。
これに関しては、前々から「違うんだよな」と思いつつ、なんとなく放置してきた私が悪い。なので、いい機会だから今、この場ではっきりさせようと思う。
今作『マリスアングル』を姫川玲子シリーズの正式な「第十作」とし、今後『感染遊戯』は、姫川玲子シリーズにはカウントしないこととする。なぜなら、将来的に勝俣健作(かつまたけんさく)を主人公とする作品が刊行された場合、『感染遊戯』は「勝俣健作シリーズの第一作」と紹介されるであろうからだ。
何より、玲子自身が嫌がると思う。
『ストロベリーナイト』から始まる一連の作品群は「姫川玲子シリーズ」なのであって、そこに「あの男」の作品が交じるなんて許せない。あんなのと一緒にしないでほしい。
おそらく勝俣も、この一点に関しては玲子と同意見だろう。
なんで俺様の勲功が「死神事件簿」に組み込まれなきゃなんねえんだ。フザケるなって。それとも何か、あの死神は盗みまでやるのか。盗みじゃねえってんなら、なんだ。詐欺か。どっちにしろ碌(ろく)なもんじゃねえ。そこまでして手柄が欲しいかね。まったく、浅ましいにもほどがあるぜ。
このイザコザを見たら、魚住久江(うおずみひさえ)は思うだろう。
よかった。私のシリーズは、最初から別枠で。
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誉田哲也(ほんだ・てつや)
1969年、東京都生まれ。『ストロベリーナイト』に始まる〈姫川玲子〉シリーズをはじめ、作風は多岐にわたる。近著は『妖の絆』『ジウX』。