あるIターン夫妻を通じて見た、時空を自在に行き来する新たな共同体の姿

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彼岸の図書館

『彼岸の図書館』

著者
青木真兵 [著]/青木海青子 [著]
出版社
夕書房
ISBN
9784909179043
発売日
2019/10/03
価格
2,200円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ラジオを通じた人々のつながりや山村共同体の未来への希望

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 都市から山村に移住する若い人が増えている。いま自分が二十代ならそういう選択を考えるかもしれないと思う。もはや経済成長はないと分かり、働く意味が見えにくい。空しさばかりが募るようになった。

 著者の夫婦もIターン組だが、田舎暮らしに憧れたのではなく、逃げ込んだのに近かった。兵庫県の都市部に暮らしていたが、夫婦ともに体調を崩して危機に陥ったのである。

 現在は奈良県東吉野村に住み、生活の糧は別に得ながら、会いたい人に話を訊き、生活の中で覚えた違和感を言葉にする「オムライスラヂオ」という番組をインターネットで配信。自宅は私設図書館として開放している。

 本書は、そのラジオ番組の載録と、夫婦のコラムで構成されている。いちばん多く登場するのは思想家で武道家の内田樹氏。ほかにも建築家、Web制作者、茶園経営者などとともに移住の意味を探っていく。都市生活は必要なパーツを集めて合理的に構成されるが、村の暮らしは山や森と人が地続きで、パーツに分けられない。それが元気の元になる、という指摘がおもしろい。この全体性こそが都会生活が失ったものなのだ。

 田舎では物事の対価をお金以外で支払うので非常に面倒で風通しが悪い、高度経済成長期に人々が田舎から都会に出稼ぎにいったのも、お金がそれを一気に解決する万能アイテムだったからではないか、という意見にもうなずかされた。面倒な人間関係から解放されたくて都会に出た面が確かにあったのだ。

 だが、現代ではそれが逆転し、人間関係の息苦しさやストレスは都市のほうが強くなっている。そして村落には縛りあう人間そのものが減ってきているのだ。

 ラジオを通じて外の人と繋がり、その番組を聴いた人が自宅の図書館にやってくる。土地に根ざしながらも、土地に縛られずに、時空を自在に行き来する。そんな新たな共同体の姿に未来の希望を感じた。

新潮社 週刊新潮
2019年11月28日初霜月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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