『イーブン』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【聞きたい。】村上しいこさん 『イーブン』 自分の思い、言葉にする力を
[文] 産経新聞社
いじめや家庭不和など、子供を取り巻く問題をリアルに描き続ける児童文学作家の村上しいこさん。新刊では家庭内暴力(DV)など女性の「性」にまつわる問題を扱いながら、人と人とが分かり合うために必要なことを浮き彫りにした。
主人公の美桜里は父のDVが原因で両親が離婚、友人関係がこじれて不登校になった中学1年生。高校に通わずに働く16歳の少年トムと交流を重ねるが、相談に乗ろうとするトムに、悩みを打ち明けられない。
《「美桜里とおれが、まだ気持ちの上で、イーブンじゃないってこと。いろいろ話せるところまで、信用されてないのかな」》
引き分け、対等を意味する「イーブン」。トムは美桜里との関係をイーブンにしようと、親からネグレクトの虐待を受けた過去を打ち明ける。この場面に著者の思いが込められている。
子供時代にいじめや虐待に苦しんできたと話す村上さん。「ずっと自分の気持ちを押し殺して過ごしてきた」といい、今もトラウマのように自分の思いを口にするのは苦手だが、「自分の気持ちをオープンにしなければ、相手の気持ちをくみとれないことを大人になってから知った」と語る。
イーブンな関係が必要なのは、美桜里とトムに限らない。夫婦関係が壊れた美桜里の両親、子育てを放棄した母親とトムにも当てはまる。さらに、村上さんは物語の要素に性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」も取り入れて、思春期の少年少女に、男女が互いに尊重し合える関係性とはどういうものかを問いかけた。
「腹が立ったらなぜ腹が立っているのか、嫌なことをされたら何が嫌なのか。子供たちには自分の言葉で伝える力をもってほしい」。つらかった子供時代、読書に救われたという村上さん。「本を読むことで言葉を知ることができる。これからも子供の悩みに寄り添う作品を書いていきたい」(小学館・1400円+税)
篠原那美
◇
【プロフィル】村上しいこ
むらかみ・しいこ 昭和44年、三重県生まれ。平成27年『うたうとは小さないのちひろいあげ』で第53回野間児童文芸賞を受賞。絵本、児童書を多数執筆。