サバイバル家族 服部文祥(ぶんしょう)著

レビュー

5
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サバイバル家族

『サバイバル家族』

著者
服部 文祥 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784120053368
発売日
2020/09/23
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

サバイバル家族 服部文祥(ぶんしょう)著

[レビュアー] 風樹茂(作家・開発コンサルタント)

◆自産自消で知る「命の循環」

 先日、大学生の息子と娘を連れて自転車で近所のスーパーに行った。値札に鋭く目を光らせる妻の監視がない分、買い物はまるで狩猟のようで楽しかった。こんな感想は、本書の著者に嗤(わら)われるかもしれない。サバイバル登山家の服部は実際に息子・娘とともに狩猟に行く。  

 本書は家族の生成、成長、解体の予兆を、明るい筆致で描いた家族史である。三十年ほどの年月を貫くのは、現代文明への反逆だ。登山家・狩猟家の視点からは、社会を覆う効率、利便性、死の隠蔽(いんぺい)は、生きる上で最も大切な何かを喪失していると感じざるを得ない。スーパーに行けば簡単に肉が手に入る。一方、狩猟に行くには、免許を取得し、銃を購入するなどの前準備と獲物のシカやヌートリア(大ネズミ)を仕留める日時が必要となる。けれどもその過程にこそ、豊穣(ほうじょう)な何かがある。それを経験してきた三人の、息子と娘は幸せである。ある意味贅沢(ぜいたく)な生活といえる。

 本書で最もページを割いているのは、家族による鶏の飼育である。昭和三十年代には都内に住む私の親戚も鶏を飼っていた。自産自消である。鶏により卵を得、用無しとなればトリ鍋にして食べる。本書でも仲良かったモアと名付けた鶏が死んだ時、末娘の秋は泣く。けれども「やっぱモアちゃんはおいしいね」と言ってトリ鍋をつつくのである。こうして、生きることの残酷さや命の儚(はかな)さと循環を知る。

 服部は家禽(かきん)であるニワトリに対しては、「積み重ねてきた時間とそこで育んできた感情」があり、それが「切ない感慨となって脳内に何らかの快楽物質を生み出している」と書くが、一期一会の狩りの獲物にはさほど情を持たない。生きる上で人は残酷である。

 昨年服部は「隠居」と称して関東近郊の山中にある廃村に、古い家と広い土地をただ同然で手に入れたとある。自給自足に近い生活を送るつもりらしい。何やら「死ぬまで働け」という風潮が作られつつある日本社会にあって「輝ける隠居生活」を是非(ぜひ)提示してもらいたいものだ。一服の清涼剤のごとく。

(中央公論新社・1815円)

 1969年生まれ。99年から食料を現地調達する「サバイバル登山」を実践。

◆もう1冊

服部文祥著『ツンドラ・サバイバル』(みすず書房)

中日新聞 東京新聞
2020年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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