『OKI 囚われの国』杉山隆男著 「現代戦」描く警世の小説

レビュー

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OKI――囚われの国

『OKI――囚われの国』

著者
杉山隆男 [著]
出版社
扶桑社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784594086046
発売日
2020/09/23
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『OKI 囚われの国』杉山隆男著 「現代戦」描く警世の小説

[レビュアー] 安藤慶太(産経新聞正論編集部)

 本書は月刊「正論」に令和元年11月号から2年9月号まで連載された「緊急シミュレーション小説 202X年日本黙示録 OKIを奪還せよ」に加筆、修正された作品である。島根県隠岐の島に独裁国家から送られた武装集団が襲来、あっという間に実効支配され、国内は大混乱、メディアも政権も右往左往する…。随所で「平和ボケ」が染みついた日本社会ならではの愚かしい光景が繰り広げられる。有事の可能性から目を背けて過ごしてきたツケをまざまざと見せつけるリアルさがこうしたシミュレーションの真骨頂なのだが、本書が今までの作品と決定的に異なる点がある。それはこれまでの旧態依然とした戦争観にかわる「ハイブリッド戦争」なるものを具体的光景として描いたことだ。

 「戦争」と耳にしただけで戦場を想像してたくさんの兵士が相まみえながら、兵器が飛び交って、おびただしい負傷者があふれる-こんな光景を思い浮かべる人は多いだろう。だが、いまや「戦争」はそういうものではない。2014年のロシアによるクリミア併合を見よ。ロシアはほぼ無血でクリミアを占領、併合した。正規の武力衝突をちらつかせつつ軍事力を使わない「非正規戦」を駆使し、「サイバー戦」で国民の情報網を壊し、「情報戦」で人心を惑わす。中国式にいえば「超限戦」にほかならない。新たな戦争形態である。流血とは程遠く、政治や経済、法律や宗教、心理、文化、思想…とあらゆる要素が“兵器”になる。

 小説でも「防衛出動」が俎上(そじょう)にのり、亡国の「平和勢力」がこれに反対する場面も登場する。だが、「ハイブリッド戦争」では「平時」とも「有事」ともつかない形で事態が進んでいく。既存の防衛法令が役に立たないのだ。

 こうした「現代戦」が日本を見舞ったら、どうなるか。それが本書の内容である。宣戦布告もなく、銃撃戦もない。むしろ侵略者は柔和で、マスコミはこれに群がり、いいように世論は分断、攪乱(かくらん)されていく。自衛隊への長期取材の末、話題となった「兵士シリーズ」の著者ならではの視座が随所にちりばめられた、戦後レジームを根本から問う警世の小説である。(扶桑社・1700円+税)

 評・安藤慶太(正論編集部)

産経新聞
2020年11月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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