『おとぎカンパニー 日本昔ばなし編』
書籍情報:openBD
あのとき助けてもらった
[レビュアー] 田丸雅智(ショートショート作家)
鏡に向かって、同期で一番仕事ができるのは誰かと尋ね、慰めを得ているOLの話。かつて最強の名をほしいままにしていた赤い頭巾の老婆の話。一年前、海外童話をもとにした二次創作ショートショート(SS)集『おとぎカンパニー』を上梓した。今作『おとぎカンパニー 日本昔ばなし編』はその第二弾となる、日本昔ばなしをもとにした一冊だ。
童話とSSは、アイデアと印象的な結末があるという点でとても近く、近いがゆえに二次創作も難しい。が、それにしても今作では前作以上に頭を抱えた。日本昔ばなしというものが、海外童話以上に手ごわい相手だったからだ。
最たる理由が、類似のパターンが多いこと。助けた何かが恩返しにやってきたり、A爺さんが成功し、B爺さんが失敗したり。あるいは、桃太郎や浦島太郎のように、すでにさんざんいじり倒されているものも多い。原作のどの部分をどう活かし、どう自分なりの新しいアイデアへとつなげるか……。
苦心はなんとか、十二編の物語へと結実した。一寸法師から生まれた「一寸上司」。上司の身長が本当に一寸、つまり三センチほどであったなら? 浦島太郎から生まれた「RYU―GU」。ジムでいじめられ、悲鳴をあげていた筋肉を助けたら? 笠地蔵から生まれた「ピン」。単に自分が下手(へた)で倒せなかっただけのボウリングのピンが、情けをかけてもらったのだと勘違いして人の姿でやってきたら?
子供のころ、ぼくは昔ばなしが大好きだった。それらが、退屈な時間をいかに輝かせてくれたことか。いかに想像力を育んでくれたことか。
「どうも昔ばなしさん。あのとき助けてもらった田丸です」
本書が、少しでもみなさまに楽しんでいただけるものになっていますよう。それと同時に、この本が昔話に対するぼくなりの恩返しにもなっていれば。そんなことを願うばかりだ。
もっとも、恩を仇(あだ)で返すようなことになっていやしないか、いささか心配ではあるけれど。