あのとき助けてもらった――『おとぎカンパニー日本昔ばなし編』著者新刊エッセイ 田丸雅智

エッセイ

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おとぎカンパニー 日本昔ばなし編

『おとぎカンパニー 日本昔ばなし編』

著者
田丸雅智 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913250
発売日
2019/12/19
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

あのとき助けてもらった

[レビュアー] 田丸雅智(ショートショート作家)

 鏡に向かって、同期で一番仕事ができるのは誰かと尋ね、慰めを得ているOLの話。かつて最強の名をほしいままにしていた赤い頭巾の老婆の話。一年前、海外童話をもとにした二次創作ショートショート(SS)集『おとぎカンパニー』を上梓した。今作『おとぎカンパニー 日本昔ばなし編』はその第二弾となる、日本昔ばなしをもとにした一冊だ。

 童話とSSは、アイデアと印象的な結末があるという点でとても近く、近いがゆえに二次創作も難しい。が、それにしても今作では前作以上に頭を抱えた。日本昔ばなしというものが、海外童話以上に手ごわい相手だったからだ。

 最たる理由が、類似のパターンが多いこと。助けた何かが恩返しにやってきたり、A爺さんが成功し、B爺さんが失敗したり。あるいは、桃太郎や浦島太郎のように、すでにさんざんいじり倒されているものも多い。原作のどの部分をどう活かし、どう自分なりの新しいアイデアへとつなげるか……。

 苦心はなんとか、十二編の物語へと結実した。一寸法師から生まれた「一寸上司」。上司の身長が本当に一寸、つまり三センチほどであったなら? 浦島太郎から生まれた「RYU―GU」。ジムでいじめられ、悲鳴をあげていた筋肉を助けたら? 笠地蔵から生まれた「ピン」。単に自分が下手(へた)で倒せなかっただけのボウリングのピンが、情けをかけてもらったのだと勘違いして人の姿でやってきたら?

 子供のころ、ぼくは昔ばなしが大好きだった。それらが、退屈な時間をいかに輝かせてくれたことか。いかに想像力を育んでくれたことか。

「どうも昔ばなしさん。あのとき助けてもらった田丸です」

 本書が、少しでもみなさまに楽しんでいただけるものになっていますよう。それと同時に、この本が昔話に対するぼくなりの恩返しにもなっていれば。そんなことを願うばかりだ。

 もっとも、恩を仇(あだ)で返すようなことになっていやしないか、いささか心配ではあるけれど。

光文社 小説宝石
2020年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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