【聞きたい。】田中陽希さん 『それでも僕は歩き続ける』
[文] 篠原那美(産経新聞社)
■どんな挑戦にも価値がある
日本百名山、二百名山に続き、陸路は徒歩とスキー、海路はカヤックなど人力だけを頼りに、三百名山をひと筆書きで踏破する旅に挑んでいるプロアドベンチャーレーサーの田中陽希さん。新刊では、人生を振り返り、挑戦し続ける意味を見つめ直した。
平成30年から始めた三百名山への旅も、これまでと同様、NHKBSプレミアムの番組「グレートトラバース3 日本三百名山全山人力踏破」で放送されている。本書は昨年春の緊急事態宣言で4月から約3カ月間、山形県滞在中に行われたリモートインタビューをまとめたものだ。
子供時代の思い出や、影響を受けた出会いなど、田中さんを知る自叙伝としても興味深い。ただ、読みどころは、前人未到の挑戦を続ける理由と、田中さんの知られざる胸中だろう。
田中さんの本業は自然の中に設定されたコースをチームで突破していくアドベンチャーレースの選手だ。
「最初の百名山への挑戦は、チームが強くなるために自分を鍛えなければならないと決意して臨んだもので、100%の達成感が得られた」と振り返る。
ところが、続く二百名山は対照的な旅となった。
「百名山の後、周囲の期待に流されるように二百名山が始まった。責任感が先に立ち、行く先々で、テレビに映る笑顔を求められている気がして、猫をかぶっている感じもしていた」
三百名山への挑戦を決めたのは、チームに戻り、1年がたったころ。「不完全燃焼の二百名山があったからこそ、田中陽希としての挑戦の集大成に挑みたくなった」と語る。
2年でチームに戻る約束が、骨折やコロナ禍で3年以上が経過した。北海道で冬を越し、旅は4月に再開。残りは18座となった。
本書は全編、漢字にルビをふってある。「どんな挑戦にも価値があり、糧となることを、自分の姿や書籍を通じて子供たちに伝えたい」(平凡社・1540円)
篠原那美
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【プロフィル】田中陽希
たなか・ようき 昭和58年、埼玉県生まれ、北海道育ち。平成19年よりアドベンチャーレースチーム「チームイーストウインド」に所属。