『東京タイムスリップ1984⇔2021』
- 出版社
- 河出書房新社
- ジャンル
- 芸術・生活/写真・工芸
- ISBN
- 9784309291420
- 発売日
- 2021/05/25
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
東京の今と昔 その変化が一目瞭然
[レビュアー] 都築響一(編集者)
善本喜一郎さんは雑誌畑をメインに長く活動してきた写真家。コロナで自宅にいる時間が増えたので、昔撮影したフィルムを整理してInstagramにアップしたところ思わぬ反響を得て、そこから同じ場所を同じ角度で撮影して一対のセットにしてきた成果が、この写真集である。
タイトルにあるように1984年と2020~21年の東京都心部―新宿、渋谷、銀座、新橋などなど―がモノクロの昔とカラーの現在で一対になっていて、変化が一目瞭然。東京が仕事や生活の場であるひとは、自分の知っている場所の過去と現在を見較べて唖然、呆然、憮然……いろんな感情が浮かんでくるだろうし、東京になんの縁もないひとも見入ってしまうはず。東京はひとつだけど、ミニ東京は全国に無数にあるのだから。
1960年生まれの善本さんが『平凡パンチ』誌に写真を持ち込み、特約写真家として働き始めたのが1983年。本書の「昔パート」は多くがその翌年に撮影されているが、1984年は平成まであと5年という昭和末期。日本がバブルに浮かれる直前だし、奇しくもジョージ・オーウェルがディストピアを描いた『1984』の年でもある。
多くの読者は善本さんが見せてくれる「東京の今と昔」、その変化になによりも興味を抱くだろうが、僕にとっては「たいして変わってない東京もけっこうあるなあ」というのも楽しい発見だった。
建物や道路や服装は変化しているけれど、場の空気感のようなものはぜんぜん変わらない東京もここにはたくさん載っている。役人やデベロッパーがいくら「改造」しようとしても、都市には「改造しきれない隅っこ」がかならずあって、それこそが都市に生気を与えている。善本さんの、記録に徹したニュートラルな写真が、そういう都市のしぶとさを、かえって浮かび上がらせてくれているような気もした。