小泉今日子と西加奈子が語る 現代社会の問題に声を上げ、発信し続ける理由

対談・鼎談

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夜が明ける

『夜が明ける』

著者
西 加奈子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103070436
発売日
2021/10/20
価格
2,035円(税込)

書籍情報:openBD

小泉今日子と西加奈子が語る 現代社会の問題に声を上げ、発信し続ける理由

[文] 新潮社

芸能界という特殊な社会の中で、十代のころから衆目を集めながらもしなやかに生きる小泉今日子さんと、27歳で小説家としてデビューして以来、独特の感性とあたたかな眼差しで「人間」を描き続ける直木賞作家・西加奈子さん。

「書きながら、辛かった」と西さん自身が振り返る最新刊『夜が明ける』は、テレビ業界で働くAD職の青年を主人公に、現代日本の若者の貧困、虐待、過重労働を描いた長編小説です。本作で描きたかったことを軸に、今の社会が抱えるあらゆる問題への向き合い方、そして小泉さんが政治に声を上げ、発信する理由についても語っていただきました。

人間は変われる


西加奈子さん 撮影:山崎智世

西 小泉さんはじめまして。西加奈子です。今日は対談を引き受けてくださって本当にありがとうございます。

小泉 こちらこそ、ご指名ありがとうございます。

西 小泉さんに自分の小説を読んでもらえた上に、対談まで引き受けてもらえるなんて、本当に光栄です。まずは、私がどうして小泉さんに『夜が明ける』を読んでいただきたかったか、そこからお話ししていいですか?

小泉 ええ。うれしいです。

西 私、小泉さんはすごくかっこいい女性だなと思っています。そのかっこよさとは、昨日、今日で作られたものではない、変わらないかっこよさです。現代の日本は、素晴らしいムーブメントが起こってると思うんです。フェミニズムしかり、正しいことは正しいと、間違っていることは間違っていると、きちんと声を上げようという流れがありますよね。もちろんまだ過渡期だからうまくいくことばっかりじゃないし、様々なバックラッシュもありますが、そんな中で、日本人で知らない人はいないくらい著名で、且つ今と全く違う常識がまかり通っていた時代に芸能界という場所で生きてこられた小泉さんが、皆と同じように声を上げてらっしゃるということに本当に感動したんです。少し前のテレビなんて、今から考えたら全部アウトみたいなところありますよね。

小泉 そうですね。

西 小泉さんは、一貫して大事にしているものはありながら、一方ですごく柔軟で、変えられるところは積極的に変えてゆこうと意識されている、という印象があります。私は小説を書くにあたって、書きたいものがたくさんあるんですけど、そのうちの一つが、人間は変われるということなんです。

小泉 ありがとうございます。

西 それから、『夜が明ける』では、政治がどう国民に向き合うべきかということを自分なりに書いたつもりです。小泉さんは、最近、積極的に政治に向き合おうと覚悟をしてらっしゃるようにお見受けしました。だからこそ、小泉さんに読んでもらえたらいいなと思っていたんです。

小泉 『夜が明ける』拝読させていただきました。ボリュームたっぷりだけど、もう、一気に、のめり込むように読んでしまいました。演劇やテレビなど自分に近い業界のことが書かれていたから、余計に身につまされるところもありました。

 私は一九六六年生まれなので、昭和の高度成長期のムードの日本で生きてきたんです。途中にはバブルみたいなふざけた時代もありました。今までと同じやり方で成長してきたから、この先の未来、つまり二一世紀は絶対に明るくてキラキラした世界なんだと信じて疑わなくて、あまり深く考えず真っ直ぐ進んできちゃったんですよね。でも実際に辿り着いてみたら、想像していた未来とちょっと違っていて。私がいた業界は特にそういう雰囲気があったと思いますが、でもそれまで信じてきたものを否定するのって難しいんですよ。違和感を感じながら進んでしまって、気がついたらここにいた、というところは主人公の感覚にリンクするところもありました。

西 自分を否定するのって本当に体力がいりますよね。小泉さんが、政治に興味を持たれたり、Twitter上で発言をするようになったのには何かきっかけがあったんですか?

小泉 先ほど申し上げた通り、私たちの世代は自分が何もしなくても経済や国が成長するのが当たり前の時代を生きてきたんです。こんなことを言うと同世代の方に失礼かもしれないですけど、政治や日本という国のありようについて深く考えなかった世代のように感じています。

 二〇一五、六年あたりだったと思いますが、若い人たちがTwitterなどの新しいツールを使って、憲法九条改正案やSEALDsについて自分なりに意見を表明したりデモをしたりしているのをネットやニュースで見たときに、私たち大人は何をしているんだろう、って思ったんです。でもその時、思わずTwitterで『いいね!』をしたら、数日後に週刊誌の記者が家の前にやって来て「どうしてあれに『いいね!』したんですか?」って取材をされたんです。

 その当時はまだ、私のような立場の人間が政治について関心を示したりするのはルール違反というかタブーのような風潮がありました。その時は、そういうものなのかなあって無理やり自分を納得させたりもしたんですが、心のどこかに違和感を抱えていました。そして二〇二〇年、ステイホームや自粛が叫ばれるコロナ禍で、情報を得るためにSNSを見ていたら、誰もがストレスや不安、苦しさを抱えているなと感じたんです。こういう世の中に少しでも風穴を開けたいと思っていた時に、ちょうど検察庁法改正案のハッシュタグのデモを見つけて、これはもう覚悟を決めようと思いました。

 私たちの世代が大事なものから目を背けて、見ないふりをしてきたから、世の中がこんなところまで来てしまったんだと思っています。この小説を読んで、改めて、若者たちが成長していく現代で、私の業界は特にまだハラスメントとか労働時間とか、問題が多いんですけど、そういう問題にきちんと関わって、ひとつひとつ解決に導いていけるような大人でいようと思いました。

西 うれしいです。そして、やっぱり本当にかっこいい。私は、SNSをやってないんです。話題になっている問題やムーブメントについて、自分なりに一生懸命勉強して考えて自分が納得する形で表現したいというわがままな気持ちがあるんだと思います。私は小説や本、とにかく本という体裁になっている活字が大好きなんです。でも、小説にするのって本当に時間がかかります。小説に落とし込んでいるうちにムーブメントが終わったりすることもあるんですけど、たとえ、そのブームが終わっていたとしても、そのことを長く、しつこく考え続けて書くことが、私のやりたいことなんじゃないかなと思ったんです。

小泉 この小説の中には、西さんが読む人に「気付いてほしい、感じてほしい」と願っている社会の歪みや人の痛みがきっちりと書かれていると思いました。いろんな世代や境遇の方が、漠然と不安に感じていることがくっきりと具体的に感じられるような小説だと思います。それは、私たちにはできない、作家ならではの仕事だなと深く感心しながら読みました。

新潮社 小説新潮
2021年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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