『女性研究者支援政策の国際比較』
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<東北の本棚>日本の性差別構造 考察
[レビュアー] 河北新報
多くの分野で男女格差が大きく、先進国で最低レベルの日本。研究者の女性割合も2割に満たない。本書は「男性がマジョリティーのままで創出される先端技術や知識」への危機感を背景に、女性研究者の支援政策に着目。海外との比較を通し、格差是正が進まない理由や課題を考察した。
2部構成。編著者の河野銀子山形大教授ら研究者6人が執筆した。
1部は欧米や中国の取り組みを紹介する。例えば、米国では1980年代に理工系の女性支援策が始まった。当初は個人のキャリア形成などを支援したが効果は薄く、組織向けに転換。男女ともに働きやすい環境整備を促す内容が広がったという。
日本では2006年度、女性研究者増を目指す政策が本格化した。河野教授は「従来の研究者と異なる視点や経験を持つ人々」が新たな発見やイノベーションをもたらすとして、女性の増加は「科学技術分野の多様性確保のための必然」と指摘する。
2部では日米中3カ国の研究者や大学院生、政府機関や女性科学者支援団体の関係者らのインタビューやオーラルヒストリー(口述記録)を分析した。
このほか、「ジェンダー統計」の重要性を複数の執筆者が強調しており、印象に残った。研究者の職位ごとの男女比など、性別の影響の違いを測る公的データは研究活動や政策立案に欠かせない。だが、日本は整備が進んでいないという。
災害や感染症、安全保障など不確実性が高まる社会で、多様な背景を持った研究者が科学技術の進展に果たす役割は大きい。ジェンダーの視点で政策課題を探った本書は研究分野にとどまらず、日本の性差別的な社会構造について学び、考える機会を与えてくれる。(和)
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明石書店03(5818)1171=3740円。