瀬戸内寂聴のことばは、なぜ刺さる?『自分らしく』生きるために忘れてはいけないこと

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自分を愛し胸を張って生きる 瀬戸内寂聴の言葉

『自分を愛し胸を張って生きる 瀬戸内寂聴の言葉』

著者
桑原晃弥 [著]
出版社
リベラル社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784434301155
発売日
2022/04/20
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

瀬戸内寂聴のことばは、なぜ刺さる?『自分らしく』生きるために忘れてはいけないこと

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

瀬戸内寂聴さんが亡くなられたのは、2021年11月9日のこと。およそ半年が経ちますが、いまなおその影響力が衰えることはありません。そして残されたことばの数々も、多くの人の心を打ち続けています。

もともとが流行作家だけに、瀬戸内の文章が人々の心を打つのは当然のことですが、それ以上に、瀬戸内の話す言葉には力があります。

単に話が上手ということだけではなく、そのにこやかな笑顔や、温かくユーモアに溢れた話し方によって聞く人が励まされ、明るくなることができるのです。(「はじめに 死に物狂いに一生懸命生きる」より)

自分を愛し胸を張って生きる 瀬戸内寂聴の言葉』(桑原晃弥 著、リベラル社)の著者は、寂聴さんの魅力についてこう述べる一方、そのあり方についても触れています。

世間が押しつけてくるイメージに縛られることなく、あくまでも「自分らしく」好奇心を持ち、明るく、元気に生きていくことの大切さを教えてくれたのだと。

生き辛い時代であり、生きていく自信を失いかけることもありますが、瀬戸内が言うように、人には「定命(じょうみょう)」があり、定命のある限り、人は与えられた命を「有り難いもの」と感謝しながら、精一杯生きていくことが重要なのです。(「はじめに 死に物狂いに一生懸命生きる」より)

そこで本書では、厳しい時代を生きる人々にとって支えとなるであろう寂聴さんのことばを、平易な文章によって解説しているわけです。

きょうは第三章「『自分こそは』と考え、『自分らしく』生きる」のなかから、2つを抜き出してみることにしましょう。

自分を卑下せず、胸を張って生きよう

私なんかではなく

「私こそ」と思って生きましょう。

▶︎『寂聴 九十七歳の遺言』

就職活動に際し、企業に提出する履歴書や職務経歴書を書く場合、欧米人などは「盛る」傾向があるものです。一方、著者も指摘しているとおり、日本人は自分のキャリアを控えめに記入しがち

それは日本人の謙虚さの表れだと考えることもできるわけですが、とはいえ謙虚も行きすぎて「卑下」になってしまったのでは困りもの

秘書として晩年の瀬戸内寂聴を支えた瀬尾まなほの最初の頃の口癖は「私なんか」でした。

何かにつけて「どうせ私なんか」と言う瀬尾に対し、瀬戸内は「私なんかなんて言葉は使うな。そんなことを言う人はここにはいらない」と厳しく叱責しています。(63ページより)

なぜなら、「私なんか」と言う表現を使うことは、自分を産み育ててくれた親に対してとても失礼だから。この世にたったひとりしかいない自分を否定したり、卑下したりする、とても愚かなことばであるわけです。

たしかに人はほんの些細なことで自信を失い、「自分なんかもうダメだ」「自分なんか生きている価値がない」と卑下しがち。それは仕方のないことなのかもしれませんが、それでもやはり大切なのは、生まれてきた自分を誇りに思い、大事にすること。

だからこそ「私なんか」ではなく、「私こそは」と胸を張って生きるべきだというのです。なぜならそれが、生きる自信、生きる勇気につながっていくから。(62ページより)

やる前からあきらめず、まずやってみる

大事なのはまず何かやってみること。

「これはとてもできないかな」と

尻込みしないことです。

▶︎『はい、さようなら』

せっかくなにかを思いついたにもかかわらず、やる前から「無理だよ」とあきらめてしまう方もいらっしゃるかもしれません。なお、ここではこのことに関連し、興味深いトピックが紹介されています。

2000年代になって登場したのが、携帯電話を使って執筆し、閲覧もされる「ケータイ小説」です。中には若者の心をつかみ、大ヒットしたものもありますが、多くのプロの小説家は「あれは文学じゃない」などと批判しました。

瀬戸内寂聴も当初はそうでしたが、ある時、その魅力を知ろうと片っ端から読むうちに、「私も書いてみよう」と思い立ったのです。(67ページより)

当時すでに86歳だった寂聴さんにとって、それが大きな冒険であったことは想像に難くありません。しかしコンビニに出かけて若者ことばを教わりながら、紫式部にちなんだ「ぱーぷる」というペンネームで、携帯電話を使った、慣れない横書きの小説を書き進めたのでした(のちに『あしたの虹』(毎日新聞社)として単行本化)。

やがて、寂聴さんが書いたとは知らずに「文章が上手ね、応援します」などの反響が寄せられ始めたこともあり、寂聴さんは3カ月後に、「ぱーぷる」が自分であることをカミングアウト。その結果、当然のことながら、寂聴さんのケータイ小説は大評判となったのでした。

「慣れるまでは大変だったが、わくわくして楽しかった」と本人は語っていますが、ここからは「なにごともまずやってみる」ことの大切さを実感することができるはず。

慣れないことをするのであれば誰だって不安だけれども、自信を持って一歩を踏み出してみれば、それだけで人生は楽しくなるということです。(66ページより)

来たる5月27日から、寂聴さんをおよそ17年にわたって取材したドキュメンタリー映画『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』が公開されます。

僧侶と作家の二つの顔を持ち、人生と女性であることを楽しむ彼女の生きざまを浮き彫りにした作品だそうで、なかなか期待できそうです。先に本書に目を通しておけば、映画もより深く鑑賞できるかもしれません。

Source: リベラル社

メディアジーン lifehacker
2022年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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