少女の奮闘が胸を打つ 壮大で壮絶な冒険ファンタジー

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少女の奮闘が胸を打つ 壮大で壮絶な冒険ファンタジー

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 独創的な設定で主人公の孤独と強靭な魂を描き、毎回読者を魅了するイギリスの作家、フランシス・ハーディング『嘘の木』が文庫化された。コスタ賞の大賞と同賞の児童書部門をW受賞した傑作だ。

 ダーウィンの進化論が発表された直後のイギリス。14歳の少女フェイスは家族とヴェイン島に移住する。世間では博物学者の父の発見が捏造だと告発され、島でも噂が広がるなか、父が不審死。遺された日記には、不思議な木に関する記述があった。その木は嘘を養分にし、実を食べた人間に真実を見せるという。それまで人の顔色をうかがってきたフェイスだが、父の名誉回復と復讐のため、いい子の仮面を捨てて嘘の木を利用しようと決意する。科学と信仰がせめぎあう時代、女性が抑圧されていた世相を盛り込みながら描き出す壮大で壮絶な大作。ハーディング作品の邦訳は他に『カッコーの歌』『影を呑んだ少女』『ガラスの顔』(すべて東京創元社)があり、いずれも素晴らしい。

 独創的な設定で驚かせ、少女の奮闘が胸を打つ作品といえば辻村深月の本屋大賞受賞作『かがみの孤城』(ポプラ文庫 上下巻)。学校に行けなくなった中学生のこころが自室の鏡をくぐりぬけて辿り着いたのは不思議な城。そこには他に6人の中学生がいる。昼間だけ城に通う彼女たちは、時に衝突しながらも距離を縮め、やがて自分たちの共通点に気づく。

 こころが現実世界で抱える苦しみ、城での人間関係の構築、仲間の窮地を知って起こす行動。その姿が心に刺さるが、終盤、次々と明かされる真相にもう号泣。非常によくできた物語だ。

 他に少女の冒険ファンタジーで選ぶなら柏葉幸子『霧のむこうのふしぎな町』(講談社青い鳥文庫)。こちらはほのぼのとした読み心地で、こんな夏休みを過ごしたかったと思わせる。6年生の夏、一人旅を実践したリナが訪れたのは風変りな町。不機嫌なおばあさんの屋敷に下宿することになったリナは、生活費のため町で働きはじめる。『千と千尋の神隠し』に影響を与えたといわれる名作である。

新潮社 週刊新潮
2022年6月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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