『元彼の遺言状』『競争の番人』の作者・新川帆立が語る 新作『先祖探偵』の創作秘話

対談・鼎談

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先祖探偵

『先祖探偵』

著者
新川 帆立 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758414203
発売日
2022/07/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『元彼の遺言状』『競争の番人』……と次々とヒットを飛ばしている人気作家・新川帆立さんの新刊『先祖探偵』創作秘話!

[文] 角川春樹事務所


新川帆立

『元彼の遺言状』での鮮烈なデビュー以来、次々とヒットを飛ばしている新川帆立。その新シリーズとなる『先祖探偵』の発売を記念して、文芸評論家の細谷正充氏による対談と解説、また新作発売に期待を寄せる書店員の皆さんからの応援コメントで、その人気と創作の秘密に迫る。

 ***

ロジカルな物語世界と魅力的なキャラクターで描く、新しいハードボイルド

細谷正充(以下、細谷)本日は新刊の『先祖探偵』を中心に話を伺います。

新川帆立(以下、新川)探偵ものはいかがですかとお話をいただいて、そのときに二つの道があると思ったんです。一つは本格ミステリー的な意味での、難しい謎解きをする探偵。もう一つは、ハードボイルドな路線での探偵。これは必ずしも名探偵みたいな感じではない。そのどちらに行くかというとき、ミステリーよりハードボイルドを書きたかったんですね。

細谷 それはどうしてでしょう。

新川 誰に言っても“?”みたいな顔をされるんですが、最近ハードボイルド作家じゃないかと思い始めていて。私が書きたいのはハードボイルドなんじゃないかと。

細谷 なんとなくわかります。新川さんの作品の、自分の規範を持つ主人公たちが、事件や人物と向き合うというスタイルは、ハードボイルド的だと思います。

新川 人の強さとか強がりとかが書きたいのかもしれない。謎解きの面白さも技術として書けるようになりたいとは思っていますが。で、ハードボイルド探偵ものにしようと、大きい方向性は決めました。実はNHKの「ファミリーヒストリー」を見ていて、めちゃくちゃ面白かった。みんな自分の先祖って知っているようで知らないですよね。おばあちゃんぐらいまでしか知らないし、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんの職業になると急に曖昧になる。今まで見過ごされてきたけれども、意外とみんなも興味のあるところなのではないかと思って設定しました。

細谷 斬新な設定です。主人公の邑楽風子は、今までの作品の中で一番突飛なところがない。ハードボイルドということで、あえて個性を抑えたのかなと思いました。

新川 まさにその通りです。ハードボイルドの主人公はあまり自分語りをしない。自分の痛みとかには蓋をしていて、気づいてないようなキャラクターにしたくて。キャラ立ちという感じではなく、より現実の人間に近い造形にしてみました。

細谷 謎解き探偵の方向にはいかないと言いましたが、第一話は、かなりトリッキーなネタを使っていますね。

新川 そうですね。本格ミステリーで求められる謎解きのレベルってすごく高いので、そこで勝負はしていない。ただ、自然とミステリー短編のリズムにはなっていると思います。

ヴァリエーション豊富な全五話のミステリー


細谷正充

細谷 全五話ですが、一話ごとにテイストを変えています。第二話は瑠衣という女の子の夏休みの先祖調べの話になる。読んできて気になったのが、家族に対するこだわりです。今までの作品にも家族との確執や、複雑な思いが盛り込まれていますね。これは意識的なものか、それとも無意識なのか。

新川 無意識です。言われてみて、確かにそうだなと思っています。宮崎出身なんですが、地元から出たくて出たくて上京した。家族というか、土着的なものからの抑圧みたいなものを感じて暮らしてきたんです。(今でも)逃れられない生まれとか土着とか、故郷の鬱陶しさと有難さみたいなものがないまぜになっている。多分、私自身が悩んでいるから、出てしまうのかな。あと、もう一つ理由があるとすれば、比較的若い主人公を置いているからだと思うんですね。三十前後ぐらいだと、家族の話は切り離すことができない。

細谷 なるほど。生まれ育ちのような、環境込みでキャラクターがいるという。

新川 すべてのキャラクターについて、この人はどこどこ出身で、こういう家族がいて、という周辺設定が頭の中にあります。そこまで考えないとやっぱり掴めないですね。

細谷 なるほど。では第三話ですが、怪談の「六部殺し」を使っています。

新川 地域伝承とか大好きなんです。こういうのって、百パーセント嘘ではないと思うんですよ。残るには残るなりの理由があって、フィクションかもしれないですけど、そのフィクションが必要とされる理由があるのだと思います。何百年経っても変わらない人間の本性みたいなものとかがあるような気がしています。

今後の執筆と、『先祖探偵』の続編

細谷 ファンタジーやホラーも書いてみたいですか。

新川 現代ものも好きなんですが、違う世界の話を読みたいという気持ちがあります。地方出身ですごく娯楽がなくてつまらなかったから、本を読むしかなかったということが、自分の原点だと思う。本を読むということが、唯一の息継ぎができる時間でもあったんです。だから、日常がつまらないのに、そのつまらない日常の延長みたいな話は読みたくなかったんですよ。違う世界に行きたいという気持ちが強かったので、SFとかファンタジーとかへのこだわりもあるんだとは思います。私、地方の人に向けて書いているんですね。田舎の人が、ある種つまらない日常を忘れられるようなものを書きたい。

細谷 でも、新川さんの小説の作り方は、とてもロジカルですよね。

新川 そうですね。ただ、プロットはぜんぜん立てられない。前から順番にしか書けないので、いったん書いてから改稿します。

細谷 風子は、あちこちの地方に行きます。現地取材はしているんですか。

新川 現地には行けてないんです。資料本を読んだり、ものすごく綿密にストリートビューを追いかけて、確認しながら書いています。(風子が)全国各地に行く構成にしたのは、取材と称して毎月旅行をしようと思ってだったのですが、そのタイミングでアメリカに行くことになったので。日本に戻ってこられたら、毎月取材に行きたいですね。

細谷 ということは、シリーズは続くのでしょうか。

新川 続けたいですね。全国四十七都道府県、行きたいです。

細谷 それはいいですね。最後に今後の予定を教えてください。

新川 冬頃に集英社から短編集が出ます。ちょっとブラックユーモアっぽい短編集。筒井康隆さんが好きなので、その感じでやっています。リーガルSFと、私は言っています。

細谷 今後は、ジャンルを問わずにどんどん広げていくような形ですか。

新川 そうですね。今年の夏から連載が三つ始まって、このシリーズも続いていきます。来年もたくさん出せるといいなと思っています。

構成:細谷正充 写真:島袋智子 協力:角川春樹事務所

角川春樹事務所 ランティエ
2022年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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