なぜ倒産して本当によかったのか?大映創業者が語ったお金と幸せを結ぶ現代の「帝王学」

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激動期を生き抜く これからの帝王学

『激動期を生き抜く これからの帝王学』

著者
永田雅乙 [著]
出版社
秀和システム
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784798068008
発売日
2022/10/18
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

なぜ倒産して本当によかったのか?大映創業者が語ったお金と幸せを結ぶ現代の「帝王学」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

フードビジネスコンサルタントである『激動期を生き抜く これからの帝王学』(永田雅乙 著、秀和システム)の著者は、「永田ラッパ」の異名をとった映画会社「大映」の創業社長・永田雅一の本家最後の男児曽孫。

6歳のとき、「お金ってどうやったらもらえるの?」と聞いたとき、その曽祖父は「人を笑顔にすることをしなさい」と答えたのだそうです。

最初からお金を儲けようとするのではなく、人が喜んだり楽しんだりすることを一生懸命にやると、自然にお金はついてくるということです。曽祖父は「お金だけを追い求めていても、結果的にお金も人もついてこない」と教えてくれました。

簡単に言ってしまうと、これが帝王学です。お金と幸せを結ぶ教養を帝王学と言います。それが、永田家での定義でした。(「まえがき 帝王学とは『お金と幸せを結ぶ教養』だ」より)

帝王学には「お金持ちのルール」というようなイメージがあるかもしれませんが、お金と幸せを結ぶ原理原則のようなもので、必ず役に立ってくれる思考だということです。

さらに重要なのは、コロナ禍によって価値観やライフスタイルの大幅な変化を余儀なくされている現代についての著者の指摘です。いまは、著者の曽祖父が日本映画の最盛期を築いた戦後と同じ「激動の時代」だというのです。

つまり、著者が本書で伝えようとしている「おじいちゃんから授かった帝王学」は、激動期を生き抜くにふさわしい教養だということ。

そうした考え方に基づく本書のなかから、基本的な考え方を解説した第1章「そもそも、帝王学とは何か?」に注目してみたいと思います。

まずは「失敗や挫折を恐れないこと」から

「新しいビジネスを手がけたが大損してしまった」とか、「一生懸命努力したのに、成果に結びつかなかった」、あるいは「大切な商談や面接でやらかした」「努力してつくり上げたものが、世間から評価されなかった」など、一般的に失敗や挫折にはネガティブな印象がまとわりついてしまうものです。

しかし著者のおじいちゃんは、違った考えの持ち主だったようです。

おじいちゃん(永田雅一)は「失敗を恐れて行動できないことが、人生でいちばんの損失だ」という考え方の人でした。

私は「人生という限られた時間の中では、どれだけ多くの経験を重ねたかが豊かさの指標になる。だから何事も思い立ったら行動しなさい。そのときに、結果を考えながら行動するのはやめなさい」と、いつも言われてきました。(21ページより)

もちろん、なにも考えずに行動していいという意味ではありません。とはいえ、考えすぎて動けないのだとしたら、そのほうが大きなマイナス。だからこそ、とにかく行動すべきだという考え方です。

たとえば、新しいビジネスを始めるにあたり、計画を練って、データを収集し、失敗しないための施策を考えて、そこから動いて悩み……という、今の時代で言うPDCA(Plan、Do、Check、Act)を1周まわすとします。

一方で、すぐ行動を起こせる人は、一般的なPDCAを1周まわすあいだに、4周まわしたくらいの経験をします。失敗を恐れている人と比べると、すぐ行動を起こせる人のほうが、4倍も知識と経験、スキルが身につくということです。(21〜22ページより)

つまりは失敗も含め、さまざまな経験を積むことこそが“人生の豊かさの指標”になるということ。失敗や挫折を経験したとしても、そこから新たな一歩を踏み出せばいいだけなのです。もちろん失敗や挫折の渦中にいるときは苦しいものですが、重要なのは“どの視点でものごとを見るか”。

それに、いま目の前で起きていることが失敗に見えたとしても、長い目で見れば必ずしも失敗ではないというケースも少なくありません。

いずれにしても、帝王学においては動かないことがいちばんの損失なのだと著者は強調しています。動いたうえでの失敗や挫折であれば、あとからいくらでもリカバーすることは可能。しかし動かなければ、そもそも始まらないのです。したがって、恐るべきは動かないことであり、失敗や挫折を恐れる必要はないということ。(20ページより)

さらに「そういった経験」からなにを学ぶか

おじいちゃんが築き上げた映画会社の大映は、昭和46年(1971年)に倒産してしまいました。

一時代を築いた映画会社の倒産は大事件ですが、おじいちゃんは晩年「あのとき倒産して本当によかった」とよく話していました。

なぜか。

倒産したことで、人生において大切なこと、大事にしていたことを、ようやく思い出せたからだと言うのです。(24ページより)

つまりは、こういうことのようです。

昭和20(1945)年に大映株式会社が誕生して以降、もちろん苦労も多かったけれども、それを乗り越える原動力となったのは「映画という娯楽を通じ、戦後の日本を多くの笑顔で満たそう」という思い。その結果、いつの間にか会社は大きくなり、お金持ちにもなって政治的な力さえ手に入れることができたーー。

やがて昭和30年代に入り、自身の地位が確固たるものになったときには、「得たお金をいかにして増やすか」「力をどうやってさらに強めるか」という視点に変わっていた。そして、そこからおよそ10年をかけ、大映は昭和46年の倒産に向かっていったーー。

地位もお金持ちからも手に入れた昭和30年代に関しては、お金という指標で見ればおじいちゃんは成功者そのもの。しかし本人にとっては、苦労が多くてもピュアな気持ちで映画に向き合っていた昭和20年代のほうが重要だった。お金は伴わなかったけれど、それこそが成功だったわけです。

昭和46年に大映が倒産し、世間では「永田ラッパは終わった」と言われていましたが、おじいちゃんの解釈では、倒産が成功の始まりであり、自分の人生を成功で終わらせることができたと考えていました。

倒産によって、人生において大切なこと、大事にしていたことを、ようやく思い出すことができたからです。(25ページより)

帝王学においては、倒産さえ人生の学びに昇華することができるのでしょう。(23ページより)

著者がおじいちゃんから学んだ知見がベースになっているだけに、強い説得力を感じさせる一冊。「お金と幸せを結ぶ原理原則」を学び、それを生かすために、ぜひとも読んでおきたいところです。

Source: 秀和システム

メディアジーン lifehacker
2022年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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