不安定な状況、理不尽に扱われる女性 人生をサバイブするのは大変だ!

レビュー

5
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

青木きららのちょっとした冒険

『青木きららのちょっとした冒険』

著者
藤野 可織 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065296547
発売日
2022/11/10
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

不安定な状況、理不尽に扱われる女性 人生をサバイブするのは大変だ!

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 九篇の物語すべてに「青木きらら」が登場する。モデル、ライター、中学生、高校生、中年、子ども……すべての「青木きらら」は別人だ。

 冒頭の「トーチカ」の主人公は放送局の非正規警備員として働き始めた近子。彼女が「唯一その美に平伏し信奉している」のがモデル兼俳優の青木きららだ。ある日局に現れたきららを「偽者」と見抜いた。

 ここでのきららはまるで太陽だ。地上の者はきららの陽に照らされて互いの姿を確認する。太陽はまともに見ることができない。つまり誰もきららの姿を直視、確認できない。幻影のような「偽者」のきららが神々しく思える不思議。

「スカート・デンタータ」は痴漢に狙われる女子高生の逆襲。スカートに宿った巨大な歯は、痴漢の手を容赦なく食いちぎっていく。この話の青木きららは痴漢の被害者でありながら、痴漢を撃退する加害者でもある。

 やがて女子高生だけじゃなく、男子学生、そして社会人男性も自衛のためにスカートを身に着けるようになる。ズボンよりスカートの方が防犯面で安心だから……本来スカートは防犯どころかリスキーだ。そもそも形状からして垂らした布で覆っているだけで下半身を守る機能はない。圧倒的に弱かったスカートがついに牙(歯)を剥いたのだ。

 殺されたり、自然に亡くなったり、すでにこの世のものではないきららもいる。その他に親の事情に振り回される不自由な立場にいる子どもたち、不安定な状況下で理不尽に扱われる女性たち、青木きららはその当事者として現場に立ち会っている。

 たとえ大きな災害や戦いがなくても、人生をサバイブするのは大変だ。

 八篇目「愛情」の中で、「母親であることと妻であることを放棄」した途端、世の中がその母に冷たくなるのはなぜだろう。巧みな文体と表現から生まれた青木きららは、凝り固まった意識をほぐして自由にしてくれる。

新潮社 週刊新潮
2022年11月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加