<書評>『BLANK PAGE(ブランク ページ) 空っぽを満たす旅』内田也哉子(ややこ) 著

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BLANK PAGE 空っぽを満たす旅

『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』

著者
内田 也哉子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163917917
発売日
2023/12/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『BLANK PAGE(ブランク ページ) 空っぽを満たす旅』内田也哉子(ややこ) 著

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

◆虚無感埋めるぬくもり

 父はミュージシャン内田裕也、母は女優樹木希林、夫は俳優本木雅弘…有名すぎる家族を持つ文筆家の著者。

 立て続けに両親を失った後、空っぽになった心を満たすために人との対話を始めた。相手は著者の以前からの知り合いもいれば、初対面の人もいる。

 谷川俊太郎の章では、谷川が自分の中の子どもの言葉を借りて書いた詩と両親の思い出を振り返る様子を、スケッチするように綴(つづ)っていく。谷川は言う。

 「死というものがないと、生きることは完結しないんです。僕は死んだあとが楽しみ」

 生が限りあるものだと気づくのは死を意識した時。谷川にとって死も生の一部で、自身が死んだあとも終わらないもの。

 養老孟司は4歳の時に父の臨終の場面で何も言えないままだった。以来、誰に対しても挨拶(あいさつ)ができなかった。大人になって、父に別れを告げられなかったことが起因していると気づいた時に涙が溢(あふ)れた。

 死は命が失われた瞬間であっても、時をかけて本当の死となっていくのだろう。 

 対話のそこここに死が漂っているが、不思議と暗くはない。

 冒頭に記された「うわのそら」が本書すべてを包むキーワードかもしれない。著者のあらゆる感情はもやに包まれている。著者が以前から抱える「消えない虚無感」と同じく、名付けようのない感情だ。

 一方、対話を求められた人々が著者に対し、社交を越えた感情を持って語っている。それはおそらく慈愛によるものだ。

 誰もが誰かの子どもである。どれほど年をとっても、誰かの親になっても、たとえ親を失っても変わらない。迷子になった子を放っておけないように、空っぽになった著者の手をそっと取る。そのぬくもりは目には見えないし、文字にもあらわれないけど、読み手の心を温めてくれた。

 対談相手と共にする空間と時間、相手の言葉を受けた自らをスケッチし、自らの心を整理する。

 著者による喪の仕事である。

(文芸春秋・1760円)

1976年生まれ。文章家。著書『新装版 ペーパームービー』など。

◆もう1冊

『9月1日 母からのバトン』樹木希林、内田也哉子著(ポプラ社)

中日新聞 東京新聞
2024年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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