『小説 ゴルフ人間図鑑』
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ズルしても勝ちたい、必死な姿。人間の悪癖はプレーにあらわれる
[レビュアー] 中江有里(女優・作家)
ゴルフは生涯スポーツだという。加えて仕事の一環としてやる方も多い。娯楽ではなく、仕事に絡んだゴルフを題材にした短編小説集。
タイトルに「図鑑」とあるようにさまざまな人間が登場する。共通するのはゴルフが好きであること。
ただしゴルフのやり方は違う。忖度ゴルフ、接待ゴルフ、賭けゴルフ……やめたくてもやめられない、そんなゴルファー図鑑だ。
「榊原社長のパット」の大手スーパーマーケットの榊原社長は、ゴルフのパット位置をごまかすのが常習。勝利への執念が強いのだ。しかし「不正を働くような会社と取引したくない」と取引先から苦情が寄せられ、望月秘書室長はなんとかやめさせようとする。ズルをしても勝ちたい、必死な姿は滑稽だ。本人だけがバレていないと思っているのだから。
「篠田会長のOB」はゴルフのOB=規格から外れるのが嫌なあまりについ不正をしてしまう。この悪癖を自覚している篠田だが、どうしてもやめられない。
いずれも、人間の奇妙なこだわりがゴルフのプレーにあらわれる。そしてゴルフが心身に影響を及ぼし、イップスになったり、ギャンブルに走ったり、ついには殺意まで芽生えたりもする。登場人物たちは深刻なようだが、どこか可笑しみがあって、ゴルフから離れたら、たぶん普通の人。
こんな風にゴルフが引き出す不完全な人間の性(さが)を淡々と描いている。
「刑事北村のホールインワン」ではゴルフによって狂った、ある男の人生が語られる。ホールインワンは幸運だと思っていたが、それはプロの話。素人にとっては最高の不幸。
ゴルフとは不思議なスポーツだ。人を狂わせたり、幼稚な面を露呈させたりする。誰かと競っているように見えて、実は自分と闘っている。
ゴルファーにはゴルフ人格的なものがあるのかもしれない。
ゴルファーの寓話と呼びたい一冊。