単純な素粒子の寄せ集めと基本法則からこの世界の不思議さが生まれる根本原理

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すべては量子でできている

『すべては量子でできている』

著者
フランク・ウィルチェック [著]/吉田 三知世 [訳]
出版社
筑摩書房
ジャンル
自然科学/物理学
ISBN
9784480017543
発売日
2022/09/16
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

単純な素粒子の寄せ集めと基本法則からこの世界の不思議さが生まれる根本原理

[レビュアー] 須藤靖(東京大学教授)

 科学は、世界を切り刻むことでその奥底にある驚くほど単純な法則を解明してきた。しかしそれは決して終着点ではない。基本法則が埋め込まれた実在というべき生命や宇宙の起源を理解し、その豊饒さを再構築するのもまた科学の目的だ。

 物質の主要構成要素である陽子と中性子は、それ以上分割できない素粒子(クォーク)3個からできている。しかしクォークを単独で外に取り出すことはできない。著者のウィルチェックは、大学院生時代に指導教員と共同でクォークの閉じ込め機構に関する先駆的研究を行い、約30年後の2004年、ノーベル物理学賞を受賞した素粒子理論物理学者である。

 最近、量子もつれ、量子コンピュータ、量子テレポーテーションなどの単語を耳にする機会が多い。本書『すべては量子でできている』は、量子に関する一般向け解説書……ではない。

 いわゆる要素還元的観点から世界の基本法則を探る試みが素粒子物理学だ。素粒子は質量・電荷・スピン(自転の向きのようなもの)など、少数の限られた性質だけを持ち、しかもその値は素粒子ごとに完全に決まっている。

 そんな単純で無味乾燥な存在であるにもかかわらず、1030個もの膨大な数が集まれば、色・香り・触感といった信じがたいほど複雑で多様な性質を示す巨視的物質となる。

 しかし、意識や知性を持つ生物から様々な天体を宿す宇宙に至るまで、膨大な数の素粒子の集合体たる巨視的実在の振る舞いを、要素還元的観点のみから理解するのは絶望的だ。

 かくも単純な要素と基本法則から、魅力に満ちあふれたこの現実世界の複雑さと多様性が生まれる根本原理(ファンダメンタルズ)を探る試み。これこそが本書のテーマであり、原題「根本原理 現実世界に至る10の鍵」にこめられた意味なのだ。

 レゴブロックだけで驚くほど精緻な建築物や風景を再現することができる。我々の住む宇宙は、そのパーツを10-15に縮小する代わりに1080個集めたものに他ならない。しかし、素粒子同士が物理法則によって結びついている点が本質的な違いを生む。

 そして膨大な数の基本構成要素が基本法則にしたがって相互作用する巨視的系は、単なる部品の寄せ集めからは想像できない多様性を自ら創発するのだ。生命、さらに人間の意識や知性もまた、その延長線上にある。

 単純な要素と基本法則が生み出すこの世界の不思議さを、ウィルチェックならではの視点を通して存分に堪能してほしい。

新潮社 週刊新潮
2022年12月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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