英語は5点、学年ビリの成績から「東大」に合格した西岡壱誠が紹介する、地頭がよくなる3冊

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書籍情報:openBD

地頭がよくなる3冊

[レビュアー] 西岡壱誠(作家)


西岡壱誠さん

偏差値35のド底辺から「東大」に合格した西岡壱誠さんが、地頭がよくなる本を紹介してくれました。現役の東大生で『東大読書』というヒット作も手掛け、作家として注目される西岡さんの選んだ3冊とは?

西岡壱誠・評「地頭がよくなる3冊」

 受験生たちに向けて、オンラインオフライン問わず全国20校以上の学校で勉強法を解説しています。また、読解力を鍛えると「地頭力」が高まると考え、拙著『東大生の本棚』では僕が影響を受けた作品を紹介しています。今回はその中では挙げていない3作について。

 僕は上橋菜穂子先生の本が大好きです。先生の本は、どの物語もその世界観が独特で、引き込まれます。全く知らない世界の話でありながら、その考え方や国同士・民族同士の衝突や融合は、われわれの知っている世界に立脚していて、非常に面白い。文化人類学者としてアボリジニをはじめとする民族研究を行っている先生が書いただけあって、代表作『精霊の守り人』の世界観は重層的で考えさせられます。

 そしてこの作品のもう一つ面白いポイントは、ファンタジーの世界の中にあって、「ファンタジー的な世界」に対する受け取り方が多様だということです。登場人物全員が前提条件として「ファンタジー的なもの」を知っているのではなく、超常現象を受け入れる人も受け入れない人も、自然に対して征服的な見方をする人も逆らえないものとして受け取っている人もいます。霊を信じる人も信じない人もいて、読んでいる読者にも「正しい見方」が提示されているわけではない。その受け取り方までも、作品の世界観の中に含まれていて読者に解釈が委ねられているわけです。だから、まるで自分もその世界の住人の一人のようで、より作品に没入できるのではないでしょうか。

 高校3年生の最後に、夜通し約80キロの道のりを歩く歩行祭というイベントを題材にした『夜のピクニック』。この作品では、歩行祭を通して今まで話したことのなかった人たちと話し、新しい出会いを得て成長していく、そんな青春真っ直中の高校生たちの人間関係が描かれています。

 この歩行祭、実際にあるイベントだというから驚きです。茨城県の学校で行われていて、作者の恩田陸先生も体験したことがあるのだとか。それもあってでしょうが、作中の描写はとてもリアルです。読後は、この物語の登場人物たちと同じように、本当に80キロの道のりを夜通し歩いたかのような感覚を得ることができます。

『夜のピクニック』を読んでいると僕は、あまり話さないままで卒業してしまったり、何となく別れてしまった人たちの顔が思い浮かびます。もし、こういうイベントがあったら、自分はもっと話ができたんだろうかと思ってしまいます。きちんと別れることができなかった人たちもたくさんいて、あまり話をせず知り合えないままの人たちもいて。

 だから、「このまま卒業してしまうのは、なんだかもったいない」と勇気を持って気になる人に話しかける10代の彼らの姿は、僕にはとてもキラキラして見えるのです。

 みなさんも、誰かに話しかける勇気がないと感じる時にはぜひ読んでもらえればと思います!

「4人父親がいる」という謎の家族構成、だがなぜか、家はうまく回っている……。『オー!ファーザー』の面白いところは、この不思議な家族を通して、家族とはどういうものかを客観的な目線で見ることができるという点です。

 4人父親がいるということは、それぞれの父親の4人分の誕生日があって記念日があって、そして4人分の「お別れ」がある。そんな人たちの物語を見ると、どんなふうに家族を形作ればいいのか、家族として大切なこととはなんなのか、そんなふうに考えるきっかけをくれるのです。

 そしてその上で感じるのは、「父親って不器用だよな」ということです。みな自分の息子だと信じて疑わないけれど、なんとなく真実を確かめる勇気もなく、だけど子供のことを本気で愛している4人の父親たち。彼らの姿を見ると、不思議なことに、「やっぱりどんな家族でもこういう不器用さがあるよな」と感じてしまいます。こういう、「ちょっとおかしいのに、なぜか自分たちにもあてはまってしまう不思議」というのが、この本の面白さだと思います。

 どこにもない家族形態なのに、でもどこにでもある家族の話を、みなさんぜひご堪能いただければと思います。

新潮社 波
2022年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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