『世界史が苦手な娘に宗教史を教えたら東大に合格した』
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歴史の根底に流れる「価値観」から世界史の「本質」を知る
[レビュアー] 西岡壱誠(作家)
自分は、偏差値35から東大を目指し、東大入試を3回経験した人間です。2回不合格になり、2浪して、3回目でなんとか合格しました。その東大受験の中でも特に鬼門だったのが、世界史という科目でした。
世界史は、単語や人物名は覚えられても、記述問題で文章が書けないのです。また、やぶれかぶれで書いても、合格水準の解答がどうしても作れず、点数がずっと伸び悩んでいました。
しかしそんな僕に、成績が一気に上がるきっかけが訪れました。
それは、勉強とぜんぜん関係のないイベントでした。受験生であるにも拘らずひょんなことからドイツを旅行することになったのです。大聖堂に行き、自然に触れ、自分の価値観とは違う尺度で生きていて、求めるものもモノの見方も全然違う現地の人たちと語り合い……すべてが新鮮な経験でした。
僕はそこで、世界で生きる人たちが何を拠り所にしていて、ヨーロッパの人たちの根底にある価値観がどういったものなのか、触れることができたのです。
そして、世界史を「世界の人々が、どのような原動力によって動かされていたのか」を考えながら解釈するようになり、それによって東大模試の成績が大幅に上がったのでした。
さて、そんな経験があるからこそ、僕にとってこの本は、納得感しかない本でした。
「多くの人の心を掴み、社会を変える原動力となっているものとしての宗教」を語り、そこから世界史に対しての理解を深めようとしています。まさにその試みは、僕が成績を上げた方法そのものです。
私たちはつい、自らの尺度で物事を考えてしまいがちです。日本で世界史の教科書をペラペラめくっていると、特に「自分と違う人」だとは思わないのです。
例えば、キリスト教徒の行為を「唯一の神を信じ、自分の命が終わった後でも永劫に魂は残り続ける」と信じている人の行為だと考えて教科書を読む人は少ないですよね。
でも、それではいけない。世界史において重要なのは、歴史上の人物の名前でも用語でもなくて、根底に流れる「価値観」なのです。川の下流にいても、川の全容はわかりません。上流に溯って、その源泉がどうなっているのかを見なければならない。そしてその源泉は、多くの下流の川につながっている、「本質」なのだと思います。
この本はまさに、「本質」を教えてくれる本でした。