「絶対ドラマ化できないやつをやってやろう」作家・似鳥鶏が“医療もの”というテーマに泌尿器科医を選んだのは小説家の性

エッセイ

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名探偵外来

『名探偵外来』

著者
似鳥鶏 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915025
発売日
2022/12/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

史上初の医療ミステリ『名探偵外来 泌尿器科医の事件簿』著者新刊エッセイ 似鳥鶏

[レビュアー] 似鳥鶏(作家)

 断言しますが、小説家というのは全員ひねくれ者、というか天邪鬼です。みんなが右を向けば左をちらちら見るし、みんなが林檎(りんご)を描けば自分だけ蜜柑(みかん)を……いや、突然変異により巨大化した人喰いトマトを描きたがります。林檎→蜜柑だとそれこそみんなが考えそうなので。

 仕方がないのです。周囲と同じことをやっていたら一番には絶対になれないし、それどころか「こいつ、どっかで見たようなものしか書かないな」と読者に見抜かれ、売れなくなって廃業する羽目になるので。だからテーマのあるアンソロジーなんか書かせた日にはもう大変。全員が「俺だけは変化球でいって目立ってやろう」と考えるものですから、結局全員変化球(※ストレートに見せてムービング・ファストボールを投げようとするやつもよくいる)。テーマを素直に解釈した作品が一つも来ず、編集者は頭を抱えることになります。ボケばかりでツッコミがいないお笑いみたいなものです。

 私もそんなひねくれ者のうちの一人なので、「医療もの」というテーマを前にした時、まず浮かんだのが泌尿器科と肛門科でした。これまで様々な医療ドラマが発表され、かなりマニアックな職種まで題材になっているのに、なぜかこの二つだけはほとんど書かれていないからです。

 ついでに言うなら「絶対ドラマ化できないやつをやってやろう」とも思っていました。どうも世間には、小説家は皆ドラマ化を目指している、と思っている人がいるからです(何を目標とするかは人それぞれです)。医療ものとなれば尚更それを言われることが予想されたので、前述の天邪鬼が疼(うず)いたのでした。

 また、個人的には「小説でしかできないもの」を書きたいと思ってもいました。泌尿器科の悩みは他人に相談できないことが多く、そういう問題を描くのは小説がぴったりなのです。

光文社 小説宝石
2023年1・2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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