『創造的破壊の力 : 資本主義を改革する22世紀の国富論』
- 著者
- Aghion, Philippe /Antonin, Céline /Bunel, Simon /村井, 章子
- 出版社
- 東洋経済新報社
- ISBN
- 9784492396711
- 価格
- 4,620円(税込)
書籍情報:openBD
<書評>創造的破壊の力 フィリップ・アギヨン、セリーヌ・アントニン、サイモン・ブネル 著
[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)
◆知財保護確立と成長促進
「創造的破壊」とは、二十世紀の天才経済学者シュンペーターが有名にした言葉だが、本書は、フランス出身で世界的に活躍している三人の経済学者が、創造的破壊をもたらすイノベーションがどのような影響力を持ち、どのような環境であればそれを促進しうるかを具体例を通じて論じた好著である。
「新古典派」のコアな理論体系によれば、物理的な資本の蓄積(換言すれば、設備投資の促進)が一人当たりのGDPを引き上げるという。資本は収穫逓減の法則に従うので、この方法では一定限度までしか成長はできない。そこで最近では、教育や知識開発への投資でも成長につながるモデルがいくつも提示されるようになった。だが本書は、その掘り下げ方が新古典派では不十分だと主張する。
そこで、イノベーションの積み重ねこそが成長の最大の原動力だというシュンペーター流の考え方が登場するのだが、特に力点が置かれるのは、知的財産権の保護という制度の確立である。例えば、名誉革命後のイギリスで初めて財産権が確立したことがイノベーションの機運を高め、百科全書の国だったフランスを凌駕(りょうが)することができたのだと。同時に、既存企業や政府が既得権益を守ろうとするあまり新規企業のイノベーションを阻害することがないような競争環境を整備する必要性も説かれている。
現代的な関心では、イノベーションが所得の上位層への集中を促す、いわゆる「格差」の要因になるのではないかという懸念があるかもしれない。著者たちは、イノベーションは社会的移動性を高めることによって生産性の向上に貢献するので、総合的な不平等を悪化させることはないと主張する。逆に、参入障壁やロビー活動は成長の足を引っ張り、かえって総合的な不平等を増すとして否定的に扱われている。市場、政府、市民社会がトライアングルを構成し、イノベーションを盛り立てていくという主張は健全なものであり、一読して創造的破壊とは何かを深く学ぶことができるだろう。
(村井章子訳、東洋経済新報社・4620円)
アギヨン コレージュ・ド・フランス教授。アントニン フランス経済研究所のエコノミスト。ブネル フランス銀行エコノミスト
◆もう1冊
清水洋著『イノベーション』(有斐閣)