『自由な社会をつくる経済学』
書籍情報:openBD
世代を超えた経済論壇エース同士の対談
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
自由と民主主義は、日本や欧米の多くの国を支える価値観だ。だが、ロシアや中国などの権威主義国家の台頭や、また既得権益を守るさまざまな集団の抵抗によって、この価値観は危機に直面している。社会は分断され、意見の対立が激化することで、自由と民主主義という共通価値がいまや失われつつある。この自由と民主主義の危機的状況とそこからの打開策を、岩田規久男・柿埜真吾『自由な社会をつくる経済学』は、対談形式によってわかりやすく解説している。岩田は、デフレ不況の脱却に貢献してきた経済学者(前日銀副総裁)であり、柿埜はその若き後継者だ。世代を超えた経済論壇のエース同士の対談という点でも面白い。
「歴史を顧みれば、人類史の中で自由な社会は原則ではなく常に例外だった」とする著者たちの問題意識は切実だ。社会が油断すれば、政治や経済活動、そして表現や思想の自由もわれわれはあっという間に失いかねない。しかも日本では「リベラル」と称される人たちほど、他者を排除し人間の多様性を無視している、と著者たちの指摘は厳しい。
金融政策など景気対策をしっかり構築し、岩盤規制を撤廃し、再分配政策によって格差問題の是正を図る。この王道ともいえる経済政策の道を追求していくことで、自由と民主主義を支え、その進展を促す。安易な「脱成長」を唱える論調や、俗流の「新自由主義」論に対しても強い批判を展開している。本書の「本物のリベラル的思考」は説得的だ。