なぜ理工・IT系には女性が少ないのか?「ステレオタイプ脅威」の影響も

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わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書

『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』

著者
NPO法人Waffle [著]
出版社
リトルモア
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784898155707
発売日
2023/03/08
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

なぜ理工・IT系には女性が少ないのか?「ステレオタイプ脅威」の影響も

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

サブタイトルからも推測できるように、『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』(NPO法人Waffle 著、リトル・モア)は、おもに女子およびジェンダーマイノリティを対象として書かれた書籍。

ここでの「ジェンダーマイノリティ」とは、生まれた時に決められた性別に限らず自分を女性だと認識している人、中性だという人、決めたくないという人など、さまざまな性のグラデーションに基づいて生きる人たちを想定しています。(「プロローグ」より)

そして著者であるWaffleは、IT分野におけるジェンダーギャップの解消をミッションに掲げているというNPO法人。具体的には、男女の格差を解消することのみならず、さまざまなジェンダーやアイデンティティを持つ人たちがITを使って社会にポジティブな変化の波を起こしていくことを目指しているのだそうです。

ちなみにWaffleは、「Women AFFection Logic Empowerment」の略称。そこには「愛情深く、そして論理的に女性をエンパワーメントしたい。むずかしく捉えられがちなテクノロジーを、お菓子のワッフルのようにポップに」という思いが込められているのだとか。

著者によれば、「IT分野には女性やジェンダーマイノリティが少ない」という現実があるそう。関心を持ちつつも「やっていけるのかな?」と不安を抱いている方が少なくないのだとすれば、原因はそのあたりにあるのかもしれません。

だからこそ、本書は「学びたいと思ったら、学べる場所も手段もあるし、仲間を見つける方法もあるから大丈夫」というコンセプトを掲げているのです。

この本では、「ITってなんだろう?」と思っている方にITのワクワク感を伝えるとともに、「ITに興味がある! でも自信がないな」と思っている方を励まし、勇気が湧いてくるようなアドバイスやストーリーをできるだけ多く届けたいと思っています。(「プロローグ」より)

そんな本書のPART 1「女子&ジェンダーマイノリティが増えれば、ITはカラフルに」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみましょう。

ジェンダーギャップってなんだろう?

まず最初に、「ジェンダーギャップとはなにか?」という基本的なことについて確認してみたいと思います。

「ジェンダーギャップ」とは、性別による格差のことです。

ニュースなどでよく取り上げられるのは、世界各国の「ジェンダーギャップ指数」。これは、「政治」「経済」「教育」「健康」の4分野で、男女の格差がどのくらいあるかを数値化したものです。

日本は、「教育」と「健康」では比較的格差が小さいのですが、「政治」「経済」では格差が大きいため、総合ランキングでは世界146か国中116位という、低い順位になっています(2022年時点)。(17ページより)

たしかに世界に目を向けてみると、まだまだ女性の少ない日本とは違って、女性リーダーが政治の中心にいるというケースも珍しくありません。

その点において遅れをとっていることは間違いなさそうですが、とはいえ政治・経済の分野での世界的な格差を縮めるため、少しずつ前に進んでいることも事実。

たとえば2018年には、国会や地方議会の選挙で、男女の候補者が均等になるように目指すための法律ができました。また政府は、「2030年までの可能な限り早い時期に、国会議員や企業のリーダーに女性が占める割合を30%にする」という目標を掲げてもいます。(17ページより)

なぜ理工・IT系には女性が少ないのか

では、IT分野においてジェンダー平等はどれだけ実現しているのでしょうか?

今、日本は科学技術立国の実現を目指しています。これは、科学や技術を使った研究や開発を進めて、国を成長・発展させようという取り組みです。しかし、科学や技術を学ぶ大学の理工学部には、女性が異常に少ないのです。(21ページより)

具体的には、大学の理工学部の女性比率は全体の27.2%、工学部は14.5%。そう聞くと、「理工系に女性が少ないのは日本だけの話ではなく、どこの国でも同じなのでは?」と思われるかもしれません。しかしそうではなく、日本の工学系の女性の割合は、データの出ている116か国のなかで109位なのだといいます。

だとすれば、なぜ日本の理工系にはここまで女性が少ないのでしょうか?その理由のひとつとして、著者は「理系は男性が多い」「女子は理系科目が苦手」という思い込みがあることを指摘しています。

Waffleのイベントに参加してくれた高校生たちも、まわりの大人から「女子は数学ができないよね」「女の子なんだから文系でいい」「女性は体力がないから理工系に向いていない」と言われたことがあると話してくれました。(22ページより)

著者には、そうした声を通して知ったことがあるのだそうです。いうまでもなく、「保護者や学校の先生の思い込みや偏見が、日常の何気ない声かけによって、生徒たちにすり込まれている」ということ。

そして、それが生徒ひとりひとりの進路選択に大きく作用しているのではないかとも考えたのだといいます。

周囲がステレオタイプを持っていることによって、本人がストレスを感じ、本来の能力を発揮できなくなることを、「ステレオタイプ脅威」と言います。

もし、文理選択に悩んでいる高校生が、まわりの人から「女の子だから文系を選んだほうがいいんじゃない?」「理系は男性の得意分野だよ」などと言われたらどうでしょう?

「女子である私は理数系が苦手なんだ」「女子は理系には行けないんだ」と自信をなくすかもしれません。(22ページより)

実際に、ステレオタイプ脅威によって勉強する意欲を失い、成績が下がってしまうことも、多くの研究で明らかにされているようです。

しかし本当に大切なのは、「興味がある」「学んでみたい」というような本人の意思を尊重することではないでしょうか?(21ページより)

実際にITの分野で活躍している、16人もの女性へのインタビューも本書の魅力のひとつ。

アプリコンテストなどに挑戦している高校生、文系からソフトウェアエンジニアになった人などさまざまな人たちが思いを明かしているので、きっと参考になるはずです。

Source: リトル・モア

メディアジーン lifehacker
2023年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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