「文学の世界に新しい風が吹いた」柚木麻子が掛け値なしの称賛を持って紹介する最高の新人作家

対談・鼎談

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成瀬は天下を取りにいく

『成瀬は天下を取りにいく』

著者
宮島, 未奈, 1983-
出版社
新潮社
ISBN
9784103549512
価格
1,705円(税込)

書籍情報:openBD

文学界の新風、現る!

[文] 新潮社

 第20回「女による女のためのR-18文学賞」(以下:R-18文学賞)で史上初の三冠を獲得して受賞した青春小説『成瀬は天下を取りにいく』が刊行された。

 M-1に挑み、実験のために坊主頭にし、200歳まで生きると堂々と宣言する少女・成瀬あかりを描いた本作は、三浦しをんや辻村深月、東村アキコ、加納愛子(Aマッソ)などが「最高の主人公が現れた!」と絶賛。

 そのほか、石田衣良、南沢奈央、村井理子など、錚々たる著名人からも評価され、出版前に海外翻訳のオファーもあった本作の魅力とは?

 第21回からR-18文学賞の選考委員も務める作家の柚木麻子さんが、作品の魅力と作者・宮島未奈さんの人物像に迫った対談をお届けする。

柚木麻子×宮島未奈・対談「文学界の新風、現る!」

柚木 今日は、作家というより、ただの読者、ただのファンとして、お話しします。成瀬、最高!!

宮島 柚木さんにそう言っていただけて、本当に嬉しいです。元々、私は柚木さんの作品が大好きでずっと読んできました。私自身、ブログをやっているので、主婦ブロガーの女性が出てくる『ナイルパーチの女子会』にはすっかりハマって……。感化されてブログをやめようと思ったくらいです。

柚木 やだ、どうしよう、ごめんなさい!

宮島 結局やめなかったので大丈夫です(笑)。あと、私は東京という街をあまりよく知らないので、柚木さんの作品に登場する、東京で生きる女の子たちの様子もとても新鮮で、それに影響を受けて、東京への家族旅行でレストランチェーンの「シズラー」にも行きました。

柚木 「シズラー」! ちょっと家族で行くのに、ちょうどいいんですよね。

宮島 絶対行ってみたかったので、とても楽しい思い出になりました。柚木さんの作品は、読んだことのないものを読ませてもらえる感覚が、大好きです。だから、そんな柚木さんに作品を楽しんでいただけて、とても光栄です。

柚木 この作品を読んで、私は文学の世界に新しい風が吹いたと思ったんです。

宮島 新しい風、ですか。

柚木 これまでの文学の世界では、暗くじめっとしたものほど価値があるように語られて、明るさが軽んじられていたように思うんです。しかもそこでは、女性や子供が悲劇的に描かれることが多かった。きっとそれが楽だったんでしょうね。でも、成瀬は違います。何せ彼女は200歳まで生きると公言して、そのために毎日一生懸命、歯磨きをしている! そんな楽しげなキャラクターが、今の日本の文学には必要だったんです。実際、たくさんの人が成瀬を絶賛していますよね。そういう反応が集まるということは、きっとここから、新しい転換が起きていくのだと思います。

宮島 そんな大それたことは意識していなかったので、どの言葉も予想外で……。驚きと喜びが入り混じったような気持ちです。ただ、最近は重く、シリアスなお話が多いようには感じていました。だから私は全然重くない話が書きたいな、と。それがもしかしたら、柚木さんのおっしゃる「新しさ」に繋がったのかもしれません。

柚木 重いお話が多いというのは、コロナの流行も関係しているんですかね。

宮島 コロナでみんなが暗くなっているのは、確かにそうだと思います。それから、地元・滋賀の西武大津店が潰れるというニュースは、本当に重く受け止められていて……。地域の人たちの間には「西武なしで、どうしたらいいんだろう」というどんよりとした空気が流れていました。でも、だからこそ、私は西武との思い出や、みんながそれを惜しんでいる空気を形に残しておきたいと思ったんです。それで、「ありがとう西武大津店」という短編を書きました。

柚木 その発想が、また宮島さんらしいですよね。西武が終わってしまうことを、ただ悲しげに書かないところに魅力があります。実際に物語の中では、それがきっかけで旧友に再会したり、色々ないいことが起きたりする。喪失感に飲み込まれていないんです。

宮島 成瀬の中にも、“コロナでやることがなくなっちゃった”という思いは確かにあると思います。「西武に毎日通う」という宣言はそれがあったからこそ出てきたものだし、そういう意味で、喪失感はあるのかもしれない。けれど、もしコロナがなかったとしても、成瀬はこの夏、絶対また何か別のことをやっていたとも思うんです。

柚木 彼女は喪失という事象に対して、そこに拘泥せずに、向き合っているんですね。そしてさらにそれを楽しんでしまうのが、彼女の大きな魅力です。本作に収録されている、「線がつながる」という短編で、成瀬がいきなり坊主になって登場するシーンも大好きです。

宮島 高校デビューを目指すクラスメートの大貫が、その姿に衝撃を受ける場面ですね。

柚木 女性が髪を切った時って、何か悲しい理由があるんじゃないか、と捉えられがちじゃないですか。誰かとの切ない約束とか、何かしらグッとくるストーリーがそこには用意されていて……。でも成瀬はなんと、坊主の状態から髪を伸ばしてみたいというだけの理由で頭を丸めてしまったわけです! 髪を伸ばすのを楽しむなんて、本当に意表をつかれたし、とても彼女らしい。成瀬はいつも、目の前の経験を楽しもうとしている。その奥には、女の人が実力をつけていくことへのまっすぐな肯定が基盤にあるようにも思います。

宮島 成瀬にとっては、あらゆる出来事が楽しい思い出になり得るのだろうなと思います。

新潮社 波
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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