「なんと小説の中にミルクボーイが出てくんのよ」 M-1王者を混乱させた「成瀬」のリアルすぎる漫才描写とは

対談・鼎談

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成瀬は天下を取りにいく

『成瀬は天下を取りにいく』

著者
宮島 未奈 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103549512
発売日
2023/03/17
価格
1,705円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

成瀬に会えたんは運命やったんやな!

[文] 新潮社


ミルクボーイの内海崇さんと駒場孝さん

 2024年本屋大賞を受賞して話題となっている宮島未奈さんの小説『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)。宮島さんのデビュー作でありながら、受賞した文学賞はトータルで14冠にも及ぶ。

 この作品の主人公は、「成瀬あかり」という一風変わった中学生だ。地元唯一の百貨店が閉店するまでの1ヶ月毎日、ローカルニュースの中継に映り込むと宣言したかと思えば、唐突に幼なじみを巻き込んでM-1グランプリに挑戦、はたまた実験のために坊主頭にし、「200歳まで生きる」と堂々と宣言する少女である。小説家の三浦しをんさんをはじめ、辻村深月さん、漫画家の東村アキコさん、Aマッソ・加納愛子さんなど著名人のファンも多い作品だ。

 作中には成瀬がM-1に挑戦するきっかけとして、実在のお笑い芸人が登場している。第15回M-1グランプリ王者のミルクボーイ(内海崇さん、駒場孝さん)だ。内海さんは「あまりにM-1のくだりがリアル」だったため若干混乱したのか、あることを検索してしまったという。小説に初登場して浮かれ気味のお二人による爆笑レビューをお届けしよう。

ミルクボーイ・評「成瀬に会えたんは運命やったんやな!」

駒場 今回ね、なんと僕らミルクボーイに小説の書評の依頼がやってきましてね。

内海 そうなんですよ。驚きましたねぇ。

駒場 なんか一風変わった青春小説ってことで、なんでだ?と思いながら読ませてもらったんですけども。僕はめちゃくちゃ本好きな父親の影響もあってね、普段から結構本は読むんですけど、最近、なかなか小説には手が伸びなかった。先輩の本読むのに忙しくて(笑)。なんですけど、久しぶりに読んだら、これが面白くて移動中の新幹線でずっと読んでました。

内海 僕は毎日一章ずつ寝る前に読みましたけど、いやぁ、本当に面白かった。主人公の成瀬、ここはあえて成瀬と呼ばせてもらいますけど、これはどういう発想から生まれたんだ!っていうようなキャラでね。一章読んだ時点で、もう成瀬に心つかまれてもうて。

駒場 たしかに衝撃的でしたね、成瀬さん。地元で親しまれていた西武百貨店が閉店になると聞けば毎日中継に映り込みに行ったり、突然漫才始めたりとか、本当にオリジナリティあふれた性格で。登場人物も多彩で、全然飽きない。

内海 しかもね、小説の中にね、なんとミルクボーイが出てくんのよ。

駒場 はいはい。小説にミルクボーイが出てくるのなんて、初めてなんちゃうかと思ってめちゃくちゃ嬉しかったですね。小説の中に普通にミルクボーイの漫才のネタが出てくるってことは、もうミルクボーイは一般名詞なんや!って思って。作者も「読者の皆さんも当然知ってますよね、ミルクボーイ」ってことで書いてくれはってるわけやから。

内海 そうそう。こんなテレビ見そうもない成瀬もミルクボーイ知ってはるんや!っていうのが嬉しかったですね。

駒場 成瀬ちゃうやろ、作者がやろ。

内海 いや、成瀬が。

駒場 成瀬が(笑)。でもテレビ見そうもないのに、ふたつめの話では成瀬は親友の島崎を巻き込んでゼゼカラってコンビ名でM-1に挑戦しはる。ゼゼカラの漫才のネタも出てくるけど、これが結構面白くて。将来的に三回戦くらいまではいけそうな気もする感じのね。作者も実は本当にM-1予選に出たことあるんちゃうかっていうくらい控え室の雰囲気とかもリアルで。そうそうこんな感じやったねと思いながら読みました。

内海 そうなのよ。アマチュアの出場者がチラチラプロのコンビを見てしまう感じとかね。

 突然M-1挑戦を決める成瀬もぶっ飛んでるんだけど、それを見守る親友の島崎もね、自分は天才・成瀬あかりを見守る凡人だという割には、漫才コンビ作ったときは、自分が主導権を取って成瀬を引っ張っていく。コンビ名も島崎が考えたりしてね。そういう関係性も良かった。

駒場 三回戦までいけたら、ゼゼカラは絶対に祇園花月でエントリーすべきやな。漫才劇場は知られてないコンビは不利やから絶対、祇園花月にすべき!

内海 そこまで考えてたんか(笑)。でも僕もね、あまりにM-1のくだりがリアルなんで、待てよ、ひょっとしたらゼゼカラって本当にM-1出たことあるんちゃうかと思って、わざわざM-1のホームページの出場コンビ情報調べてしもて。これで出てたら怖いわーと思ったけど、さすがに出てこなかった(笑)。

駒場 この小説、舞台が滋賀の大津やん? 僕ら、年明けてから何度か営業に行かせてもらってたから、あそこに成瀬がおったんやな!って情景込みで話に入り込めた。だからなんか滋賀にはいまも成瀬や島崎が暮らしてる気になるし、このタイムリーさに、成瀬と会えたんは運命やったんやな!と。

内海 え? いまも膳所におるやろ、成瀬。おらんの? 僕の中では成瀬は生きてますよ。勝手に動き出して、今も膳所におって、きっとなんか変なことやってる。成瀬は変わってるけど、律儀な感じがええのよ。絶対人を裏切ったりとかしない、真っ当さがいい。五章に成瀬を好きになる他校の男子生徒が出てくるけど、めっちゃ分かる。ミシガン(編集部注:琵琶湖の観光船)で一緒に琵琶湖をクルーズするのとか、めちゃくちゃ良くて、僕もデートしたなった。まぁ成瀬なんで、急に帰ったりするんだろうけど(笑)。

駒場 僕にとっては成瀬は彼女と言うより後輩とか友達のイメージやったな。ハイツ友の会っていう女性お笑いコンビの感じを思い出した。成瀬はいい奴やから幼なじみだったら絶対友達にはなると思うし、漫才続けてたらどっかの舞台で会うんじゃないかという気になった。

内海 こっから先、成瀬が漫才続けても続けなくても、大人になっていく成瀬がどんなことやるのかめっちゃ気になる。ぜひ作者の宮島さんには続編を書いてもらって、また成瀬に会わせて欲しい!

駒場 そやな。続編にもミルクボーイの出番作ってもらえたらええな。なにせミルクボーイと成瀬は運命的に結ばれてますから!

※この記事は「波」2023年4月号をもとに再構成したものです

新潮社 波
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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