<書評>『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎 著
[レビュアー] 小林哲夫(教育ジャーナリスト)
◆学生目線不在の現場
小中学校、高校の教員が不祥事を起こせば、他の業種よりメディアで大きく取り上げられる。処分も厳しい。悪事や不正を働いた人は教壇に立ってはいけない、人にものを教える立場として誰よりも清廉潔白さが求められるからだ。
しかし、本書を読むと、こんなあたりまえの話が、大学では通用しないことがわかる。とくに情けないのが大学経営者だ。国立大学における学長選考の不明朗、下関市立大の政略的な情実人事、山梨学院大の教員賃金の大幅カットなどだ。これらは私利私欲が透けて見える。大学は政治の世界でも商売の場でもない。
大学教員のモラル低下もいっこうにやまない。本書によれば、これだけ社会で問われているセクハラやパワハラがいまだ横行し、学生の将来をつぶしている。なぜ、こうした問題が放置されるのか。経営者、教員をチェックするシステムがないからだ。トップに意見できない。同僚をかばうという事なかれ体質を変えない限り、大学は良くならない。いま一度、学生目線で大学教育を見直してほしい。
(ちくま新書・990円)
1973年生まれ。ジャーナリスト。著書『パラリンピックと日本』。
◆もう1冊
『消えゆく「限界大学」 私立大学定員割れの構造』小川洋著(白水社)