話を聞いているはずなのに、ちゃんと聞けていない人に足りないものは?

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頭のいい人が話す前に考えていること

『頭のいい人が話す前に考えていること』

著者
安達 裕哉 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784478116692
発売日
2023/04/20
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

話を聞いているはずなのに、ちゃんと聞けていない人に足りないものは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

頭のいい人が話す前に考えていること』(安達裕哉 著、ダイヤモンド社)の著者は就職に際して理系研究職の道を諦め、「給料が少し高い」という理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社したという過去の持ち主。

「コンサルティング会社に就職」と聞くと、“もともと頭がよくて、コミュニケーション能力も高かったんでしょ”と思われるかもしれませんが、私は決して頭がよかったわけでも、コミュニケーション能力が高かったわけでもありません。

実際、中高での勉強は全くダメで、成績は常に最下位レベル。浪人までしてかろうじて大学に滑り込みましたが、そこでも頭のいい人たちには全く敵わず、夢だった研究者の道も諦めざるをえませんでした。

コミュニケーションにいたっては、勉強以上に大の苦手で、口ベタな人間でした。大学の研究発表の1週間前から、“どう話そう”と考え始めたら、緊張して夜も眠れなくなるほど、ひどいものでした。(「はじめに」より)

しかし以後は中小企業専門のコンサルティング部門立ち上げに参画し、大阪支社長、東京支社長を務め、現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として活動されているのだそうです。

頭がよいわけでもなく、コミュニケーション能力も高くなかったといいながら、なぜそうなれたのか? それは、入社1年目で大きな壁にぶち当たって以来、「他者から信頼を取り戻すにはどうすればいいのか」を徹底的に考えたからなのだといいます。つまり、そうやって身につけた知見をまとめたのが本書だということ。

本書は、読者が頭のいい人たちの知見を身につけ一気に“頭のいい人”になるように設計、プログラミングしました(プログラミングだけは学生時代から得意でしたから)。

つまり、本書は、頭のいい人が考えていることを要約したものではなく、頭のいい人になるためのプログラムなのです。(「はじめに」より)

そんな本書のなかから、きょうは「傾聴」についての考え方がまとめられた第3章「ちゃんと考える前に、ちゃんと聞こう」に目を向けてみたいと思います。

“聞く”と“ちゃんと聞く”の間には大きな溝がある

人間は他者と関わらなければ生きていけないだけに、「聞くこと」はコミュニケーションの基本。にもかかわらず、話すことにくらべて軽視されがちでもあります。

しかし、ちゃんと考えるためには、ちゃんと人の話を聞くことが必要不可欠。信頼を集めることができるのは、自分が話すことより相手の話を聞くことに比重を置ける人だからです。そして、その結果として自分の話も聞いてもらえるわけです。

でも話を聞いているようで、実は聞いていない人もいるもの。たとえば、クライアントとの会食に、部下に同席してもらったとしましょう。

そのときには、「ちゃんと社長の課題を聞いてくるように」と指示することになるはず。ところが、その後、上司と部下の会話が次のように繰り広げられることは多々あるというのです。

上司:会食はどうだった?

部下:楽しかったです! とくに起業したときの社長の思いがよくわかりました!

上司:次の仕事につながりそうなことはあった?

部下:気にはしていたんですが……、あまり課題を教えてくれなかったような……。

上司:そう? はっきりは言わなかったけど、社長すごい悩んでたよ。とくに幹部の人との関係について。会話の端々に出てたじゃない。たとえば、「あいつはもっとやれる」とか「もっとコミュニケーションが必要」とか。

部下:えっと……なんか言ってましたっけ?

上司:……ちゃんと聞いてた?

部下えー……あまり自信がないです……。

(223〜224ページより)

著者によれば、ここでの部下は社長の話を聞いていなかったわけではないようです。ただしそれでも、ちゃんと聞けたことになっていません。(221ページより)

自分の理解できたことだけを切り取る人

「お客さんの話をまったく聞けないメンバーがいる」というような口が、経営者や管理職から出ることがあります。しかも、その“聞けないメンバー”は、一見すると“聞き上手”に見えたりもするもの。

メモをとったり頷いたり、相槌を打ったりし、人の話を遮ったりもしないのに、なぜか「あの人、全然話を聞いてないんだよね」といわれてしまうわけです。

著者が勤めていたコンサルティング会社にも、そんな“話の聞けない人”はいたそう。ここでは、かつて部下たちにコンサルティングに関する今後の会社の方針について説明したときのケースが紹介されています。

中小企業は、財務体質が強くないので、いきなり高額なコンサルティングを契約することができない。よって中小の新規客に“コンサル”を最初に売り込むのは難しい。でもそういうときは“入口商材”として研修が有効だとわかってきた。だから今後、研修事業に力を入れる。(225ページより)

こう説明すると、部下から次のような質問が飛んできたというのです。

研修に力を入れるということはコンサルティングはもうやらないのでしょうか?(225ページより)

“コンサルはやらない”とはひとこともいっておらず、むしろ“研修は入口商材”と明言しているにもかかわらず。そこで著者は尋ねたそうです。

著者:どう解釈をすると、今の話が“コンサルティングはやらない”となるのですか?

部下:今後、研修事業に力を入れる、と言ったので。(226ページより)

そのため著者はツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、「研修はあくまで入口で、最終的な目的なコンサルティングを契約していただくことです。コンサルティングをやめるはずがありません」と改めて説明したのだといいます。

社会に出て、経営者や管理職が愚痴をこぼす“話を聞けない人”は、話を聞こうとしない人ではありません。話を聞いているのに、聞けない人です。彼らは「自分の認識できたこと」だけ切り取って、話を聞いているのです。(225ページより)

まずは、こうならないように気をつけるところから始めたほうがよさそうです。(224ページより)

話す前にちゃんと考えることで、「いわなくてもいいこと」を口にしてしまうことがなくなったと著者は振り返っています。たしかにそれだけでも、人間関係は楽になるはず。

だからこそ、コミュニケーションに苦手意識がある人こそ、話し方を変えるのではなく、“ちゃんと考える”ことに意識を向けてほしいのだそうです。そんな考え方に基づく本書を参考にして、コミュニケーションをより円滑にしたいものです。

Source: ダイヤモンド社

メディアジーン lifehacker
2023年5月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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