パワハラ、モラハラ、威圧してくる相手の攻撃力を最小化する「3つの戦法」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
理不尽な心ないことば、悪口やしつこい叱責などはパワハラやモラハラとして問題視されているため、防止するための研修を行っている企業も少なくありません。
しかし、それはあくまで建前でもあり、実際にはパワハラ・モラハラ・グレーゾーンのことばを投げかけられているというケースもあることでしょう。
そこで参考にしたいのが、『自分を守るためにちょっとだけ言い返せるようになる本 声とココロの取扱説明書』(司拓也 著、ぱる出版)。
著者は、自身の経験と、心理学を学んで得た知見から“攻撃してくる相手への対処法”を独自に開発したというボイスメンタルトレーナー。本書では、相手をいい負かすのではなく、あくまで自分の心を守るため、ちょっとだけいい返せるようになる方法を明かしているのです。その基本戦略は、次の3つ。
無力化力…………相手の攻撃をかわす、弱化する
カウンター力……相手の攻撃を切り返す、言い返す
クッション力……そもそも相手の攻撃に傷つかなくなる
(「はじめに」より)
「無力化力」で明かされているのは、攻撃を受けた際、自分の心の傷をできるだけ小さくする、あるいはゼロにするため、準備しておくべきこと。
「カウンター力」では、攻撃されたときに、どのようなことばで応戦するかを具体的に指南。相手の攻撃性を中和し、賢くスマートにいい返すことを目指すそうです。
そして「クッション力」では、攻撃を受けたとしてもそれを攻撃と思わず、傷つかなくなるメンタルクッション力を身につける方法が明かされています。
きょうは「無力化力」のなかから、簡単に取り入れることができる2つのスキルをご紹介したいと思います。
「鎖骨10cmアップ」
攻撃してくる相手は、常にネガティブな心を持っている相手を探しているもの。そのため彼らは相手の姿勢を見て、ネガティブな気持ちを持っていると目ざとく察知し、弱った状態でいるところを攻撃してくるのだそうです。
そこで著者がすすめているのが、鎖骨を10cm上げること。それだけで攻撃されなくなるというのです。
攻撃されやすい人の姿勢にはある特徴があります。
それは鎖骨です。肋骨が下に落ちて重心がかかと側に乗り、両肩が内側に巻き込まれたような姿勢、いわゆる猫背の状態になっています。
これまで何千人もレッスンをしてきて、猫背傾向の人にはある特徴があることがわかりました。それは心根がとても優しい人が多いということです。
しかしこれは、対外的には頼りない、自信なさげな人に映ってしまいます。
他人に気遣いができる優しい心根をもっていても、姿勢1つでマイナスの評価をされたり、攻撃されたりするのは、とてももったいないことです。(23〜24ページより)
悪い姿勢をとっている人は、相手から丸腰の子羊状態に見えるもの。しかもそうした姿勢をとり続けていると、「どうせ無理」「私なんか価値がない」といった気持ちを抱え込むことにもなってしまうことにもなりがちです。そのため、相手になにかをいい返すような気持ちにもなれないわけです。
当然ながら、心をすぐに切り替えることは難しいでしょう。けれども姿勢なら、すぐに変えることができるはず。ただし、気をつけるべきこともあるようです。
姿勢を良くしようとする時にやりがちなのは、背筋を伸ばそうとすること。普段猫背の人がいきなり背筋を伸ばそうとすると、体が弓なりに後ろに反ってしまいます。
重心がかかとにかかり、そのままだと後ろに倒れるので、前にバランスを取ろうとして猫背が復活してしまうのです。
そこで、鎖骨を引き上げるというイメージをもちましょう。(23〜24ページより)
鎖骨を軸に姿勢をつくる方法のメリットは、背骨を後ろに反らさないことによって腰や背中の緊張を緩めたまま、よい姿勢をキープできるところだそうです。(22ページより)
「クリップボードメモシールド」
上司への報告や相談、連絡のたびに小言や嫌味をいわれたりすると、焦ってことばが出なくなったりしてしまうもの。そんなときにおすすめのアイテムとして、著者は「クリップボード」と「紙」と「ペン」をすすめています。上司との間にあるクリップボードが、怖い相手から自分を守るメンタルバリア=心理的盾になるというのです。
相手からの厳しい言葉に対しても、クリップボードを手にもって話を聞きましょう。同時に相手の言葉をメモする動作をとりましょう。
その際に厳しい言葉がこちらに向かってきても、「耳」で聞こうとしないでください。
目の前のクリップボードで、その言葉を受け止め、跳ね返すイメージをもってください。
気持ちが和らぐはずです。(31ページより)
著者も以前は嫌味な上司からの小言を聞くとき、しっかりと耳に意識を集中させて聞こうとしていたそう。ところが嫌味なことばは、しっかり聞こうとすればするほど心を傷つけてしまうものでもあります。でもクリップボードではねよけるイメージを持つことで、理不尽なストレスはかなり緩和されたといいます。
クリップボードの大きさはB5かA4サイズがいいでしょう。
そこに白紙をはさんで、ペンをもち、報告や相談にいきます。
うまく状況が説明できない時は、紙に状況と改善点をメモ書きしておきます。
そして上司からのフィードバックやアドバイスはすべてメモを取るようにしましょう。
手ぶらで報告に行き、ただ上司からの言葉をうなずいて聞いているだけよりも、積極的に「きちんと言われたことをメモしている」という態度を見せることで、相手の攻撃は弱化します。(31〜32ページより)
すると、たとえそれがミスの連絡や相談だったとしても、上司は気概を受け取ってくれるかもしれません。なお、最後にフィードバックされたことをメモにまとめ、その内容に間違いがないかを確認することも忘れずに。
また、メモをとる動作をするだけでも、相手はきつい言葉を証拠として残されるのでは? という気持ちになり、パワハラやモラハラの抑止力になります。(33ページより)
手間のかかることではないので、ぜひ取り入れてみたいところです。(30ページより)
本書で明かされているのは、自分自身のメンタルの弱さはそのままで“得たい未来”を実現する、超実践型の解決メソッド。試したその日から効果を実感できるというので、心ないことばの攻撃に悩んでいる方は参考にしてみるべきかもしれません。
Source: ぱる出版