居場所がない…「孤独」にどう向き合うか? 斬新だが役立つ、よしもと大﨑前会長の考え方

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居場所。

『居場所。』

著者
大﨑 洋 [著]
出版社
サンマーク出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784763139986
発売日
2023/03/14
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

居場所がない…「孤独」にどう向き合うか? 斬新だが役立つ、よしもと大﨑前会長の考え方

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

居場所。』(大﨑 洋 著、サンマーク出版)の著者は、「私服で通えて、休みも多そうだったから」という理由で吉本興業に入社し、そののちダウンタウンのマネージャーを買って出たという過去をお持ちです。

なんとも大胆ですが、結果的にはダウンタウンを成功させ、2019年には吉本興業の会長に就任。しかし、その直後には「闇営業問題」が起きて世間からバッシングを受けるなど、道筋は決して平坦ではなかったようです。

そんな著者が本書のテーマを「居場所」としたのは、「『居場所を探す』とは、芸人だけの話ではない」という思いがあったから。たしかに職場にも、心の置き場がない人はたくさんいるはず。それどころか、50歳を過ぎても60歳を過ぎても居場所を見つけられない人は決して少なくありません。

僕自身、ずっと居場所がなかったし、今も「ここが俺の居場所や!」と信じられるところを、心のすみっこのどこかで探しているような気がします。

「自分にしかできない何かを見つけ出したい、自分の居場所を見つけたい」と、もがく。

「ここなら本当の自分自身になれる。そんな居場所を見つけたい」

これって芸人も学生も定年を過ぎた人たちも抱く、同じ願いではないでしょうか。(中略)

そう考えると、居場所を探す人というのは、年齢や立場を問わず、心の中に「さみしさ」を抱いたすべての人なのかもしれません。

そんな心がある限り、大人になってもおばさんやおっさんになっても、年老いてじいちゃんばあちゃんになっても、誰もが居場所を探し続けるのでしょう。(「プロローグ」より)

こうした思いを軸に書かれてはいるものの、本書に「孤独をなくして居場所を見つける」という“たいそうなこと”は書いていないのだそうです。「○○をしなさい!」などと偉そうにいえるほどの人間ではないという思いがあるからこそ、「○○をしなさい!」ではなく、12種の「○○しない」について書いたのだとか。

そんな本書のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみましょう。

ときに孤独はおにぎりのように

孤独っておにぎりみたいなものかもしれません。同じ白いごはんの同じ形でも、中にあるのは梅だったり昆布だったり、ツナマヨだったりします。

おにぎりの中身がぱっと見ただけではわからないように、誰しも孤独を抱えているけれど、孤独の味はいろいろで、一見しただけだとどんな孤独かわからない。

おにぎりと孤独って、ヘンなたとえかもしれませんが、似ている気がします。(74〜75ページより)

こう述べる著者は新卒で吉本興業に入社して5、6年ほど経ったころ、仕事のことで行き詰まっていたのだそうです。さまざまな挑戦を始めた“はみ出し者”は容赦なく攻撃され、自分の力のなさなどがずっしりとのしかかっていたというのです。

悩みの数々は、家庭で愚痴をこぼして解消できるようなものでもなく、心配させまいと、当たり障りのない話をするのがせいぜい。しかも酒が飲めないため、酔ってパーッと発散するのも夢のまた夢。

そんななか、どうしようもなくなると足を運んだのが、大阪駅の一番ホーム。なぜなら特急や普通列車などの複数あるホームのなかの、いちばん端っこが好きだったから。(73ページより)

人づきあいが、どうしようもなく下手くそ

座るのは一番ホームの一番すみっこのベンチ。

お茶と弁当を買って、薄暗い中でぼそぼそ食べるのがあの頃の定番でした。悲しいのとも違う。落ち込んでいるのとも違う。ただ下を向いて、黒胡麻がかかった、ちょっと固まった冷たいごはんを飲み込んでいました。

「まいったなあ」と思いながら、ひとりぼっちで弁当を食べていました。それが妙に性に合っていて、楽だったんでしょう。

応援してくれる人もいたし、味方だっていたんです。それでも、その人たちに自分のつらさを一緒に抱えてもらうことが、僕にはできませんでした。(76〜77ページより)

そんな経験がある著者は、孤独な人はおそらく人づきあいのなにかが下手なのだろうと推測しています。表面では大勢に囲まれて笑っていても、それは下手くそな自分を知っているから、なんとか取り繕うと必死なだけかもしれないと。(76ページより)

孤独からロマンチックに逃げてみる

人づきあいが下手で誰にも話せなかったからこそ、著者は、本当のぎりぎりまで追い詰められる手前の人には、「孤独から、ロマンチックに逃げろ」と提案したいのだそうです。

生きていてうまくいかなかったり、味方がいなかったり、つらい役目が回ってきたり、夢が砕けたりーー。そういうことは大なり小なり誰にでもあります。しかし、そんなときにはひとりで我慢するしかないかも。ただし我慢をするとき、シリアスすぎる我慢をしてしまうと身を滅ぼしかねません。

だからこそ、ロマンチックに孤独に浸ってみるべきだというのです。

・家族にも仲間にも頼れない孤独な俺。世界でたった一人でさびしいな

・哀愁漂ってて、もろ映画のヒーローやんか

・作家、アーティスト、芸人かてそうや。かっこええやつは孤独なんや

(80ページより)

ポイントは、“ベタベタのベタ”でロマンチックに浸ることだそう。ナルシストというスパイスを忘れずに、「かわいそうで孤独な自分」に酔いしれてみるべきだといいます。

アホくさいやり方かもしれませんが、これは案外、覚えておくと役に立ちます。

なぜって、「生きるとはなんだ?」とまで突き詰めてしまったら、さびしさの沼の底を覗き込むことになる。覗き込んだら最後、にゅうっと出てきた手に引き摺り込まれます。(80ページより)

そうなってしまわないように、ロマンチックに孤独にひたるというわけです。孤独に押しつぶされそうになったら、ダメもとで一度、試してみてはいかがでしょうか?(79ページより)

本書について著者は、好きなところ、自分にピンとくるところから、パラパラ眺めてもらえればと記しています。「残念ながら、この本を読んでいただいたところで、孤独は完全に消せないし、100%完璧な居場所を見つけるのも難しい」とも。しかし、そうやって、だましだまし、心をやりくりして生きていくのも意外といいものだということです。心のどこかに居場所のなさを感じている方は、手にとってみるといいかもしれません。

Source: サンマーク出版

メディアジーン lifehacker
2023年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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