<書評>『水中ミステリー 海底遺跡と難破船』井上たかひこ 著

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水中ミステリー 海底遺跡と難破船

『水中ミステリー 海底遺跡と難破船』

著者
井上たかひこ [著]
出版社
東京新聞出版(中日新聞東京本社)
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784808310868
発売日
2023/06/26
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『水中ミステリー 海底遺跡と難破船』井上たかひこ 著

[レビュアー] 蒲敏哉(岩手県立大教授)

◆潜水調査の魅力リアルに

 J・ベルヌの『海底二万里』にあるように、海は未知の探検の世界であり、火星へ有人宇宙船を計画する現代においても、私たちの前に青く立ちはだかっている。著者は水中考古学のフロンティアに挑戦しながら、その困難さの先にある途方もない魅力に読者を誘ってくれる。

 「水中考古学の父」と呼ばれるテキサスA&M大学のジョージ・バス博士に師事した著者は地中海からカリブ海まで縦横無尽に海底遺跡調査に没頭する。潜水器具を身に着け潜る緊張感、海底での遺物発見の喜びがリアルに伝わってくる。

 鎌倉時代の元寇(げんこう)の難破船、幕末に竜馬が乗り、事故で沈んだ商船 「いろは丸」、千葉・勝浦沖に沈む黒船「ハーマン号」、伊勢・神島沖のロストアイランド「鯛島(たいのしま)」。それぞれの潜水調査には、「実は」という裏エピソードがあり、講義の合間に語られる「こぼれ話」のようにちりばめられているのが楽しい。海中に酒は持っていけないが、スコッチを片手に本書を読み進めば、水中考古学の醍醐(だいご)味に酔いしれることができるだろう。

(東京新聞・1540円)

1943年生まれ。水中考古学者。『海の底の考古学』など。

◆もう1冊

『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』山舩晃太郎(やまふねこうたろう)著(新潮社)

中日新聞 東京新聞
2023年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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