『増補決定版 沈黙の闘い』
- 著者
- マージョリー ウォレス [著]/島 浩二 式子 [訳]
- 出版社
- 大和書房
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784479570189
- 発売日
- 2023/05/25
- 価格
- 3,300円(税込)
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「孤立」への順応に警鐘を鳴らす 一人称の世界に籠った双子の実話
[レビュアー] 堀越ゆき(翻訳者)
本書は機能的な障害はないにもかかわらず、他人とは「話さない」と決めた双子の少女の記録である。双子は互いには口をきいたが、他人に対しては沈黙し、関わりを拒否した。
教師が双子を入れた部屋に録音機器を置いて立ち去ると、〈最初は何も録音されていないようだった。だがテープが終わる寸前に、まず忍び笑いが、次いではっきりした声が聴こえてきた。「何か喋らせようってわけ?」その後に長い沈黙をはさんで「秘密、秘密!」という声〉。
両親、学校、地域医療による支援は奏功せず、一六歳以降は失業手当をあてがわれ、自室に引きこもり、家庭内でも孤立した生活に入る。
双子には文才があり、文章では巧みに自己表現ができた。作家としての自活を目指し、実際に奇妙な小説『ペプシコーラ中毒』の出版に至るが、社会的自立の壁は高すぎて、心が折れる。
心機一転、恋とセックスの追求に着手するも、相手ありきの色恋にうまく立ち回れるはずもなく、不良少年に利用され、麻薬、窃盗、放火に手を染め逮捕、収監される。後半は、社会制度に困惑し自我の確立を求め傷つけあう双子の苦悩が描かれる。
本書の刊行から三十余年を経て映画化され、いま再注目される一因は、コロナ禍で強いられた社会隔離に対する漠然とした不安感からではないかと思う。
感染防止のため、それまで社会とつながっていた人々が、一斉に社会と隔絶した。多くのひとが、職場や学校とのつながりを保ちつつも、自宅に引きこもり、他人との接触を避けた。
巡る月日も三年越し。収束後も残る社会との距離感を、いまや気楽に感じる自分がいる。
しかし、それでいいのか。
一卵性双生児の少女たちは、自発的に幼少期から一人称の世界に閉じこもった。ときに憎みあい、嫉妬しあう関係だが、ひとりで行動できないため、似た者どうしの異常な思考は、ふたりしかいない世界の中で承認されあい、正当化されていく。欲望を理想化し、無知に起因する幼稚な全能感にひたり、双子は犯罪に手を染める。
社会を拒絶した双子の実話は、孤立を「新しいライフスタイル」として無邪気に受け入れた我々を戦慄させる。
旧世代の悪趣味な心理学実験のような双子の人生は、ふたりが綴った膨大な日記や著作に裏付けられ、優れたノンフィクション作品となった。双子の破滅的な人生の行方は、この度追加された三つの章で明らかにされている。