『ザイム真理教』
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<書評>『ザイム真理教』森永卓郎 著
◆均衡財政主義の妄信解く
「ザイム真理教」という表現は、著者の森永卓郎氏はネット・スラングだとしているが、私の知る限り、最初にこの言葉を使ったのは、西田昌司・参議院議員である。西田議員は、国会において、経済学者顔負けの理論や知識によって、日本の財政破綻はあり得ないと論じ、積極財政を説いている。だが、マスメディアは、西田議員の主張に一切耳を貸さず、積極財政を「バラマキ」と呼んで嘲(あざ)笑い、財務省に言われるがまま、緊縮財政や増税を唱えるばかりだ。そこで西田議員は、ネット動画を通じて直接国民に発信するようになり、均衡財政主義をカルトの様に妄信する風潮を「ザイム真理教」と呼んだ。それがネットで人気を博し、流行したのだ。
本書もまた、ベストセラーとなっている。だが、「あとがき」にあるように、大手出版社数社が本書の出版を拒否したという。実は、本書の約二カ月前に出版された拙著『どうする財源』(祥伝社新書)も、均衡財政主義を批判した書であるが、同様に、某大手出版社から拒否された。他にも、ある大学教授は、某大手新聞社に寄稿を依頼されたので、均衡財政主義を批判するMMT(現代貨幣理論)について書こうとしたら、寄稿自体をキャンセルされたという。また、ある経済学の学術雑誌の編集会議は、MMTをテーマにした論文を読みもせず、排除したという。この手の話は枚挙にいとまがないが、森永氏のように著名な経済アナリストですら、複数の大手出版社に出版を断られたというのには驚かされた。森永氏は「ことザイム真理教に関してだけは言論の自由がほとんどない」と書いているが、それは本当なのだ。
森永氏が喝破するように、日本経済停滞の最大の理由は「急激な増税と社会保険料アップで手取り収入が減ったから」だ。にもかかわらず、ザイム真理教の信者たちは、なお増税や社会保険料アップをもくろんでいる。だが、本書によって洗脳を解かれた人々は着実に増えている。ここに希望がある。
(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売・1540円)
1957年生まれ。経済アナリスト、独協大教授。著書多数。
◆もう一冊
『「国の借金は問題ない」って本当ですか?』森永康平著(技術評論社)