『任せるコツ』
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「自分でやったほうが早い」リーダーは要注意。部下に任せられないジレンマから抜け出す方法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ビジネス・シーンであれ、あるいはプライベートの場であれ、なにかを人に「任せる」ことについて悩んでいる方は少なくないはず。『任せるコツ』(山本 渉 著、すばる舎)の著者も、過去にはそんな経験をしてきたのだそうです。
しかし現在は大手マーケティング会社のジェネラルマネージャー兼、部長を束ねる統括ディレクターとして、年間100近いプロジェクトのアサイン(仕事を割り振り、適した人材に依頼すること)を担当しているのだとか。
規模の大小を問わず、これまでさまざまな仕事を依頼してきたのだといいますが、注目すべきはこの「依頼」が「丸投げ」を意味する点。成功も失敗もあったようですが、どちらにしても大きな学びがあったと振り返っています。
つまり本書では、効果的な「丸投げ」の実践方法を明らかにしているわけです。「丸投げ」ということばにブラックな印象を持たれるかもしれませんが、意図はむしろ逆だそう。つまり、「依頼された側に満足感や達成感を与えるお願いとはなにか」についてまとめているということです。
VUCA(Volatility Uncertainty Complexity Ambiguity)と呼ばれる、変化し続け、不確実で、複雑で、曖昧な時代に突入しています。
働き方改革による労働時間の削減、コンプライアンス順守の流れもあり、マネジメントする側としては頭を悩ます局面が多いことでしょう。
でも、この世の中の変化は、より健全な環境をつくり、クオリティ・オブ・ライフ(人生の質)を向上させるチャンスです。
「正しい丸投げ」は、じつは時代にマッチした技になる、と断言できます。(「はじめに」より)
とはいえ現実問題として、任せることの難しさを乗り越えるのはやはり難しいものです。そこできょうは第5章「それでも『任せられない』人に」のなかから、解決のためのヒントになりそうなトピックスを抜き出してみたいと思います。
メンバー(部下)を信じて一度任せてみる
著者によれば「任せられない理由」は大きく2つあり、その1つ目は「任せられる優秀なメンバー(部下)がいない」ということなのだそうです。
マネージャークラスに「任せるコツ」を伝えると、「それは周りが優秀だからできるんですよ」と言われることがあります。
確かにそのとおりで、私の周りには能力が高く、仕事ができる後輩やチームメンバーがたくさんいて、とても恵まれていると日々実感しています。
ただ、これはいわゆる「にわとり卵論」です。こう考えることもできます。
“任せないからいつまで経っても任せられるようにならない”(107ページより)
こう主張する著者は、「任せる」とはテレビの人気番組『はじめてのおつかい』のようなものだと述べています。子どもが勇気をふりしぼっておつかいにチャレンジする姿が大きな感動を呼ぶのは、子どもをお使いに出そうという親の決断があってこそ。
逆にいえば、もし親が「お使いの能力がまだ低いから外には出さない」と判断したとしたら、成長は生まれないわけです。また、親が子どもにつきそって「ここで右に曲がって」「この豆腐をレジに持って行って、この100円を渡して」などと指示したとしたら、それもまた意味がありません。
同じことが、ビジネスにもいえるというのです。
・メンバーの力を信じる
・多少の失敗は成長に必要と考える
・大きな事故だけは起きないように、そっと見守る
(108ページより)
このように、まずはやらせてみて、自身は適度な距離を置いて確認をするにとどめるべきだということです。(107ページより)
メンバー(部下)をいまの自分と比較しない
親がいつまで経っても我が子を子ども扱いしてしまうのと同じように、マネージャーは部下のことを「まだまだ未熟」と考えてしまいがち。
著者はそう指摘しています。たしかにそのとおりかもしれませんが、でも、どうしてそのような考え方をしてしまうのでしょうか?
それは、今の自分と比べて判断してしまうからです。
マネージャーに比べれば能力も経験値も低いかもしれませんが、そのメンバーにしかない力があるので、それを信じて一度任せてみましょう。
任せて責任を持たせれば、自分で考えて行動し、自分の力で進むことで必ず成長していきます。(108〜109ページより)
もちろん、「任せてみたら、部下が失敗してしまった」というケースもあるでしょう。しかし、失敗は投資だと著者は述べています。
失敗自体は喜ばしいことではありませんが、長い目で見れば、たとえ小さな失敗があったとしても、やがてその何倍もの成果をもたらしてくれるわけです。(108ページより)
「自分でやったほうが早い」の限界
自身が優秀なプレーヤーであればあるほど、とかく「自分でやったほうが早い」と思ってしまいがち。経験もあって能力が高いからこそマネージャーを任されているのですから、当然の発想でもあるでしょう。
ただ、そこには限界があります。
その一つのプロジェクトだけを見ればそうかもしれませんが、仕事を任せず抱え込むことは、長いスパンで見ればメンバーの成長の機会を奪い、組織としての総力を高めていないことになります。(111ページより)
つまり、「自分でやったほうが早い」はいまだけの話。先を見れば、チームとしての総力は個人の力の比ではないのです。大切なのは、メンバーの力を信じること。
人は成長します。
もし成長しないのなら、自分に問題がある、と考えましょう。(114ページより)
厳しい表現を用いるなら、「チームに任せられる人がいない」というのは、「私はマネージャーとして無能です」といっているのと同義であると著者はいいます。「自分でやったほうが早い」というのは、育成を無視して組織を弱体化させることなのだとも。(110ページより)
先述したとおり、人に頼みごとをするのは気が引けるもの。しかも「丸投げ」をするとなると、精神的なハードルはさらに上がるかもしれません。
しかし本書を参考にしてみれば、そのハードルが決して高すぎはしないことがわかるはず。少なくとも、「任せられる人」になりたいのであれば参考にする価値は充分にあるでしょう。
Source: すばる舎