<書評>『映画監督放浪記』関本郁夫 著、伊藤彰彦・塚田泉 編
[レビュアー] 藤井克郎
◆苦難乗り切った「職人」
著者が高校の建築科を卒業して東映京都撮影所に入社したのは一九六一年のこと。映画界は斜陽に入っていたが、大卒エリートに交じって助監督をこなしつつせっせとシナリオを書き続け、ポルノに任俠(にんきょう)ものにテレビドラマにと人気の職人監督にのし上がる。その一代記は、文章の切れといい個性的な登場人物といい、アクション映画のような面白さだ。
中でも諸先輩の言葉を胸に刻み、前向きに生きていった心構えが印象深い。助監督時代に名匠、加藤泰監督に諭された「映画監督ってのはネ、一年や二年映画撮らんでもびくともせん精神もたな…」は後の苦難の時代を乗り切る糧になったし、小沢茂弘監督の「監督って商売、人を信用しちゃいかん」は仕事に向かうときの心得として肝に銘じた。
ほかにも数多くの映画人にもまれながら、やがて「女性映画の関本」と評判を得るようになる。その原点とも言える母の記述は人情味にあふれ、まるで映画を見るようだ。ここはぜひ、六十五歳で監督を引退した著者に再登板を願いたい。
(小学館スクウェア・4950円)
1942年生まれ。映画監督、脚本家。監督作に『女帝』など。
◆もう一冊
『加藤泰映画華(ばな)』加藤泰著(ワイズ出版映画文庫)。加藤監督のエッセー、対談集。