<書評>『志願兵の肖像 映画にみる皇民化運動期の朝鮮と戦後日本』四方田犬彦 著

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<書評>『志願兵の肖像 映画にみる皇民化運動期の朝鮮と戦後日本』四方田犬彦 著

[レビュアー] 藤井克郎


『志願兵の肖像』

◆娯楽通じ一体化浸透

 批評家、研究者には、かみ砕いて解説するタイプととことん追究するタイプがあるが、著者のトークや講演は極めて簡明で、ぐいぐい引き込まれる一方、著書の多様さ、研究熱心さにも恐れ入る。その両面性を如実に物語るのがこの本だ。

 戦前の日本統治下での朝鮮映画の系譜が作家の黒川創氏らへの講義という形でつづられ、皇民化を映画という娯楽を通じていかに浸透させたかが明快に示される。中でも朝鮮人監督による三本の映画の比較が興味深い。一九三八年の『軍用列車』には国家を裏切る売国奴も出てくるが、四一年の『志願兵』の主人公は積極的に徴兵制を受け入れ、同年の『君と僕』では日本と完全に一体化。民族を超えた恋の成就まで描かれ、著者は「皇民化政策の目標実現」と言い切る。

 戦中、朝鮮で国策映画を撮った今井正や、その作品をのめり込んで見た大島渚らの戦後の向き合い方まで論じるが、徹底して平易な語り口調でわかりやすい。戦時下における朝鮮半島の文化研究のとば口になる一冊と言えるだろう。

(編集グループSURE・2640円)

直販のみ。ホームページ=「編集グループSURE」で検索=を参照。問い合わせは(電)075(761)2391。

1953年生まれ。映画史家、評論家。著書『パゾリーニ』など。

◆もう一冊

『帝国日本の朝鮮映画 植民地メランコリアと協力』李英載(イヨンジェ)著(三元社)

中日新聞 東京新聞
2023年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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