<書評>『ごまかさないクラシック音楽』岡田暁生(あけお)、片山杜秀 著
[レビュアー] 藤井克郎
◆深い分析と優しい結論
一クラシック音楽好きとしては、耳に心地よければそれでいいくらいに思っていたが、それこそ大いなるごまかしなのかもしれない。当代一の研究者二人がバッハからシュトックハウゼン、果てはミニマル・ミュージックまで、縦横無尽に語り合ったこの書からは、音楽がいかに人間の生き方と深く関わってきたかがうかがい知れて、思わず襟を正した。
そもそもクラシック音楽の定義からごまかしがあるという。バッハ以前の千年近い西洋音楽の歴史は古楽として外されているし、現代音楽も特殊領域に分類。ベートーベン以降の約百年をロマン派と一くくりにするのも無理がある。タルコフスキー映画におけるバッハとベートーベンの使い分けなど、改めて目からうろこの分析が満載だ。
こうして二人がたどり着いた先は「世界を知る、歴史を知る、人間を知るツール」であり、「絶対倫理が隠れている」音楽の存在意義だ。とは言うものの「聴きたいものを勝手に聴いてください」との言質に、ちょっと胸をなでおろした。
(新潮選書 2090円)
岡田 1960年生まれ。片山 1963年生まれ。
◆もう1冊
『社会思想としてのクラシック音楽』猪木武徳著(新潮選書)