『プランツケア』
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<書評>『プランツケア 100年生きる観葉植物の育て方』川原伸晃 著
[レビュアー] いとうせいこう
◆人との非所有的な共存関係
本書のテーマは観葉植物の育て方である。だが単なるハウツー本ではない。
プロローグの一行目にいきなりこう書かれている。「観葉植物は正しく『ケア』すれば人よりも長生きします」。そして、「本来、多くの植物には寿命という概念がありません」。
そもそも植物が土中に根を張り、ずいぶん先でひょっこり顔を出しているとき、それは個体の延長であるのか、群れの一部であるのだろうか。これは私がそれなりに長くベランダ園芸、および近頃では室内園芸を続けてきた好奇心の根本にある問いだ。
死は基本的に個体に起きる現象であり、だとすれば確かに「多くの植物には寿命という概念が」ないことになる。私たちが樹木を敬い、死者に花を捧(ささ)げることにはこの“生命の違い”が関係していると、私は素人なりに考えてきた。
こうした生命における他者へのあり得べき態度について、ついに「100年続くいけばな花材専門店の四代目」が易しくロジカルな言葉で表現をし、しかも同時に実践的な植物ケアのコツを整理している本書は実にありがたい。
著者は自らの観葉植物専門店「REN」で、植物のアフターケアをし、なんと永年サポート保証をしている。つまり盆栽の世界でそれぞれの鉢が売られたあとでもケアされ、時に預けられたまま生き続けることの中に、“人と植物”の非所有的な関係を見いだし、それをカジュアルな形で実現してしまったのだ。
現在、植物は世界中の様々(さまざま)な学者たちによって、今までとは異なった存在のありようが次々と明かされ、彼らがある種の言語を持ち、他の生物との共存の上で育つことなどが哲学をさえ刺激している。
著者はそうした知見を見逃さず、なおかつ鋭い感性で語る。たとえば観葉植物が無能化する(役に立たなくなる)ことで、実は家族化しているとの指摘など(「役立つ」関係は消費的であると言う)、まことに納得がいく。
そして、植物をケアしている時に起きる私たち自身へのケアがますます実感される。
(サンマーク出版・1760円)
1981年生まれ。園芸家、華道家。
◆もう一冊
『植物考』藤原辰史著(生きのびるブックス)